中傷報道に惑わされてはいけない
完全自動運転車の可能性と課題

2015/03/22(火)

目次


1. はじめに
2. 可能性
3. 課題
4. 的外れの中傷
5. 本当の課題
6. まとめ

はじめに


まさか、こんなにも早くその日が訪れてくるとは思ってもいませんでした。

完全自動運転(無人運転)実現の日が、間違いなく近づいてきています。


日産では今年発売する新型車において、渋滞時の高速道路限定ですが、自動運転車を発売するそうです。

また完全自動運転には及び腰だったトヨタも、ここにきて完全自動に舵を切った模様です。

とは言え、いくつか課題があるのも事実です。

という訳で、ここでは時期尚早と思われるかもしれませんが、自動運転の課題とその可能性を考えてみたいと思います。

さらに一部のメディアにおいては、どうみても的外れとしか思えない懸念点を記事にしているものも多々見られますので、いつもの通りそれらを木っ端微塵に粉砕してみたいと思います。

大げさ過ぎるとお叱りを頂くかもしれませんが、中にはこんな未来を予想するサイトがあるのかと思って、読んでみて頂ければと思い。


可能性


それでは先ず、完全自動運転が実現した暁には、私たちの生活がどの様に変わるかを述べてみたいと思います。

恐らくこれを読んで頂ければ、そのインパクトの大きさに驚かれると思います。


1) 交通事故激減

完全自動運転が実現したとなると、誰しも運転が楽になると思われるでしょう。

それも間違いではないのですが、一番大きな可能性は交通事故が劇的に減らせるという事です。

何故ならば、交通事故の原因の9割以上は人的、すなわち運転手起因によるものだからです。

生憎日本全体での交通事故原因の分析結果は見つからなかったのですが、広島市の道路交通局がまとめた資料がありました。



これによると、その他の7.1%を除く92.9%以上が運転手の不注意に起因する問題です。

なお上のチャートの黄色の部分である75%を占めている安全運転速度違反とは、操作ミスや前方不注意、スピード超過等です。

この状態で、もし完全自動運転のクルマが普及すれば、この人的交通事故を限りなくゼロに近付ける事ができるのです。

なぜならば、自動運転のクルマは、操作ミスもわき見運転もスピード超過も居眠り運転もしないからです。

中には、人間が運転した方が間違いなく安全だと固く信じている方もいらっしゃるでしょうが、実は完全自動運転車の方が間違いなく安全なのです。

ですので、メーカーとしても現在の技術を駆使した自動運転車であれば、クルマの安全性を飛躍的に向上できると検証した上で、開発を進めているのです。

もっと端的に言ってしまえば、人が運転するから事故が起こるので、人に運転させない事こそが、自動車メーカーにとって究極の安全対策なのです。

だからあの保守的なトヨタも、完全自動運転に舵を切ったのです。

2) 保険料の削減

また保険会社も当然自動運転車を自社でも評価し、安全性の確認を徹底的に行うでしょう。

その結果を以って、保険料の引き下げを行うのは間違いないでしょう。

中にはメーカーが万一に備えて高額な保険に入る事を期待している向きもありますが、もしその必要があるのならば完全自動運転車など作る筈がありません。

現在の技術水準からすれば、市販できる十分な信頼度を確保できると踏んでいるからです。

ただし完全自動運転だからと言って、事故が100%無くなる訳ではありません。

ですが、限りなくゼロには近づいていくでしょう。

それに伴って、自動車保険の加入者が大幅に減少するのも間違いないでしょう。

実際欧米の保険会社でも、既にその予想をしているのです。

それほどのインパクトを完全自動運転車は秘めているのです。

3) 信じられない光景

そしていつの日か、こんな信じられない光景が広がるかもしれません。

まず真っ先にタクシーや公共バスが無人化され、運賃は大幅に安くなるでしょう。

また必要なときにクルマを呼び出せば良いので、自家用車も不要になりクルマの総台数も減るのも間違いないでしょう。

これに伴って路上駐車も減り、クルマの流れも良くなるでしょう。

そして休日にどこへ行っても、クルマの流れはスムーズで、昔は運転手役だったお父さんも、帰りの運転を心配する事無く旅先の昼食でビールを飲むことができるのです。


また終電の時間も気にする必要がありませんので、飲み屋街も駅周辺の繁華街から郊外に移動するかもしれません。

そしてもっと信じられないのは、無人車が近づいても歩行者は安心しているにも関わらず、人が運転するクルマが近づくと、慌てて身構えるのです。

まさかと思われるかもしれませんが、有り得ない話ではありません。


課題


それでは次にメディアが盛んに取り上げる課題について考えてみましょう。

1) 事故の責任は誰になるのか?

自動運転と聞いて、誰もが真っ先に頭に思い浮かぶのは、自動運転中に事故が起きたら、その責任は誰になるのかでしょう。

運転手になるのでしょうか、それともクルマになるのでしょうか。

どの記事を読んでも、非常に難しい問題だとありますが、そんな事はありません。

非常に単純明確です。

先ず初期の運転支援型自動運転の場合、緊急時は運転手が操作する事になりますので、当然運転手が全責任を負います。

これは何方も異論のない所でしょう。

ではその次の完全自動運転になったらどうなるでしょう。

これも極めて簡単です。

もしクルマの使用者が操作説明書に従ってクルマを使っていて(自動運転の仕様内で)事故が発生したら、事故の責任は当然クルマ、すなわちメーカーです。

ただし、もし使用者が説明書を無視した(自動運転の仕様外の)使い方をして事故を起こした場合、使用者の責任になります。

これはクルマの自動運転に限らず、電化製品でも工業用機械でも医療機器でも同じ事が言えます。

このためメーカーでは、万一のPL(製造者責任)訴訟に備えて山の様な注意事項を操作説明書の前に記載しているのです。

とは言え、日本だけでも年間約60万件(1日1600件)も自動車事故が発生していますので、自動車メーカーの責任がとてつもなく大きくなり、完全自動運転のクルマなどを発売したら却って大きな損失を蒙る様に思われませんでしょうか?

確かにトヨタが完全自動運転には及び腰だったのはそれが理由だったのは間違いないでしょうが、そこに完全自動運転に関する大きな誤解があります。

その誤解については、後半でご説明したいと思います。

2) 法令はどうなるのか?

次に気になるのは、自動運転で交通違反を犯した場合、誰が責任を問われるのかと、今後現行法がどう変わるかでしょう。

先ず誰が責任を問われるのかについては、これも前述の事故の責任元と同じと考えて良いでしょう。

すなわち、運転支援型自動運転の場合でしたら、運転手がクルマを監視する事になりますので、もしスピード違反や信号無視をしたら当然運転手が責任を負います。

またその後の完全自動運転においても、自動運転の仕様内で違反が発生したらクルマ(メーカー)、仕様外で違反が発生したら運転手になります。

ですが完全自動運転の場合、当然ながらクルマは法令に沿って走る様にプログラムされていますので、道路情報の入力間違いでもない限りスピード違反を起こす事は無いと言えます。

また仮に完全自動運転車がスピード違反を犯した場合、さすがにクルマに反則チケットは渡せないので、メーカーに対して行政処分が下されるのでしょう。

そしてもし他に波及する恐れがあるのならば、リコールが行われるのでしょう。

こう考えると、現行法を大きく変えなくても運用できると考えるのが妥当でしょう。


3) 保険はどうなるのか?

そして次なる疑問は、自動車保険でしょう。

完全自動運転のクルマの保険代は上がるのでしょうか?

これも簡単で、保険料は間違いなく下がると断言できます。

何故ならば、過去にエアーバッグ装着車や、ABS(アンチロック・ブレーキキング・システム)装着車の保険料が下がったのを見れば明らかでしょう。


4) 事故回避行動はどうなのか?

自動運転については、一部でこんな議論もあります。

例えば、自動運転中に路肩から突然動物が飛び出してきた。

人が運転していれば、動物を避けて路肩にぶつかるか、止むを得ず動物をぶつかるかの難しい判断ができますが、自動運転は使用者の判断に沿った行動が取れるのか?

これは、完全自動運転の本質を理解されていないが故の間抜けな議論です。

なぜならば、完全自動運転が実現した暁には、動物が飛び出してくる恐れのある場所でしたら、それにも十分対処できる様に速度を落として走行する様制御されるからです。

或いは、もし高速道路を走行中に前方の車が突然スリップしたら自動運転はどう避けてくれるかではなく、前車がスリップしても対処できる車間距離を維持して走行するのが完全自動運転なのです。

もしそうでなければ、完全自動運転車ではなく、恐ろしい完全暴走自動車になってしまいます。

動物を轢くかどうか、あるいはスリップしたクルマをどうかわすかを考えている技術者は、世界中どこを探してもいないでしょう。

そんな事より、如何にして早く動物を認識するか、或いは如何にして路面の状況を把握して自車の制動距離を予測するか等について、全力を注いでいる筈です。

ましてや、完全自動運転においては使用者(運転者ではありません)の意思を一切考慮する必要はありません。

何故ならば、完全自動運転中の使用者は事故に対して一切責任を負わないのならば、その事故回避行動に対して一切口出しする権利はないからです。

もし自分が乗っているクルマの事故の回避行動について口を出したければ、自分で運転すればよいのです。

5) 渋滞が発生し易くなるのでは?

前述の様に完全自動運転車が制限速度を守って、尚且つ安全に対処できるほどスピードを落として走ると、渋滞が発生し易くなると何方も思われるでしょう。

ですが、それも全く逆です。

ご存知の方も多いかもしいれませんが、渋滞の主な原因はちょっとしたスピードの変化なのです。

良く知られているのは、サグと呼ばれる下り坂から上り坂にさしかかる所があると、気が付かないうちに速度が低下し、後続の車との車間距離が縮まることから、次々に後続の車がブレーキを踏み渋滞が発生します。


人が運転するが故に渋滞が発生する勾配の変わり目

同じ様な渋滞はトンネルの入り口付近でも発生しますが、何と高速道路における渋滞の78%はこの二つが原因なのです。

すなわち、多少スピードが遅くても、スピードが一定であれば渋滞は起き難くなるのです。

当然本流に多数の車両が合流すれば渋滞は起きるでしょうが、それとても人が運転するよりも秩序ある合流を行えますので、合流部のスピードがアップして従来より渋滞を回避できるのです。

話が高速道路メインになってしまいましたが、いずれにしろ走行台数が同じであれば、情緒的な運転ムラの無い運転完全自動運転の方が渋滞は減ると考えるのが妥当でしょう。




的外れの中傷


とは言え、そんなに良い事ばかりではないと誰でも思われるでしょうし、実際ネットを少し検索するといつもの通り自動車ジャーナリストによる否定的意見が満開です。

ですが、本当にそうなのでしょうか?

先ずはそういった初歩的で的外れな中傷から、一つずつ検証してみたいと思います。

1) 悪天候でも大丈夫か?

さすが自称自動車ジャーナリストと唸らせるのが、以下の発言です。

カメラ、ミリ波レーダー、GPS等のセンサーだけで、濃霧や吹雪などの悪天候において自動走行できるとは到底思えない。

この発言を皆さんはどう思われるでしょうか?

本書としては、この自動運転車に詳しい自動車ジャーナリスト様に以下の様に問いたいと思います。

だったら、あなたは濃霧や吹雪などの悪天候で数メートル先も見えない場合、どうやって運転しているのですか?と。

そして、あなたの五感は、同時に360度を見渡せる画像認識カメラや、夜間でも熱源を検知する赤外線センサー、視界が悪くても機能する測距用パッシブとアクティブの両レーダー、位置精度の高いGPSセンサー、更には自律式ジャイロセンサーや加速度センサーよりも優れているのですか、と問いたいと思います。

そして完全自動運転の場合、もしどれか一つのセンサー情報が安全に運転できないと判断した場合、人と違って決して走行しないという判断を下します。

その上で最後にもう一度問いたいと思います。

あなたは悪天候で数メートル先も見えない状況において、運転をしないという決断をしないで、運転を続けているのですか?

生憎この自称自動車ジャーナリストの回答を頂けないのですが、悪天候においてはなおの事、自動運転の方が安全だと言えるのは間違いないでしょう。


2) 本当に問題なく走れるのか?

また同じく、本書とは逆に自動運転車の不安を煽る記事には、自動運転車に試乗した人のコメントとして、以下のような発言を載せています。

首都高を走行中、急に割り込むように車線変更をし、危ないと思った。

恐らくこうコメントした方は、実際にそう思われたのでしょう。

ですが、あれだけ慢性的に混んでいて、なお且つ頻繁に分岐点が存在する首都高において、のんびり車線変更できる瞬間があるのか、はたまた同乗者に一切ストレスを掛ける事なく車線変更できる人がいるのか、と尋ねたくなります。

実際首都高を初めて運転した気の弱い運転手でしたら、環状線を2周程度しなければ、思った方向には分岐できないでしょう。

本書としてはむしろ、既に首都高において車線変更できるほど自動運転が進んでいる方が驚きです。

なお、非常に紳士的で気の弱い完全自動運転車に対して、故意に進路変更を妨害してはいけない等の法的な優先権を与えないと、永遠に車線変更ができないという事態が起こるかもしれません。


3) 相手が突っ込んできたらどうなるか?

自動運転車の不安を煽る意味不明の記事の最たるものは、これでしょう。

交通裁判を手掛けるある弁護士は、「自動運転車とそうでないクルマが混在する時期が相当長くあり、その間に事故がなくなることはあり得ない」と述べたそうです。

これだけ聞くと確かにその通りなのですが、これは明らかに誤解を与える発言です。

事故は無くなる事はないものの、自動運転車が増えれば確実に事故は減っていくのです。

件数がゼロにならないと言って、件数は同じだと誤解させる手法は、インチキ解説者の常套手段です。

更に問題なのは次の発言です。

「突然センターラインをオーバーして車が突っ込んできたら、自動運転車でも避けられない。大切なのは、そうした状況でドライバーの安全を守るためにどうしたらよいかの議論を社会のなかで深めること。それが現状では十分に行われていません」

この弁護士は、一体何を言いたいのでしょうか?

暴走車が突っ込んできたら、避けられないのは、自動運転も人が運転する場合も同じ事です。

ましてがけ崩れで道が崩壊したり、岩がいきなり頭上から落ちてきたりしたら、さすがの自動運転でも避けられないかもしれません。

そのときのために、ドライバーの安全をどう守るか議論するとはどういう事なのでしょうか?

全く意味が分かりません。

こういう訳の分からない不安を扇動する中傷こそが、完全自動運転の実現を阻害する最大の障害である事は間違いありません。


本当の課題


それでは次に、完全自動運連における本質的な問題に迫ってみましょう。

1) 自動運転システムの信頼性

第一に挙げられるのは自動運転システムの信頼性でしょう。

言うまでもなく、自動運転中にクルマが故障したら事故に繋がる恐れがあります。

ですがこれは全くもって、技術的な話ですので、世界中の技術者が実用上問題ないレベルまで信頼度を上げてくれるでしょう。

簡単な例で言えば、走行中にパンクしたら、路肩にゆっくり停まれば良いだけの話です。

実際、自動運転は段階的に進んでいきますので、その間に十分な市場の検証も可能です。

またもし自動制御用システムの一部が故障した場合については、既に技術は確立されており、ウォッチドッグ(システムの監視装置)が異常を検知して、やはり速やかに安全な所にクルマを停止するだけの事です。

ただしここが重要なのですが、あらゆる機械もシステムも、信頼度100%というものは存在しないのです。

ですが、たゆまぬ努力によって信頼度100%に近づく事は可能なのだという事を認識して頂きたいと思います。


具体的には一般的な工業製品の信頼度は3σですが、4σ、5σと高めていく事は可能なのです。

信頼度 確率 発生率
99.8% 2/1000
99.9999% 1/1000000
99.999999% 1/100000000

ただし何度も言いますが、信頼度100%にできないからと言って、日本でさえ人が運転するクルマにおいて年間に60万件の交通事故が発生し、4千人の方が亡くなっているという事実を忘れてはいけません。

2) セキュリティー

また自動運転システムへの不正侵入についても、金融システムや発券システムと同様に技術的に信頼度を高めていくだけの話です。


3) 回避判断

これは既に動物が飛び出した件で説明済みで良いでしょう。

ですがもし緊急時の回避の選択がどうしても必要になったら(ならないと思いますが)、それは世論の判断に任せれば良いだけの話です。

技術者やメーカーが悩む事ではありません。


4) 中傷報道

本書が一番心配するのが、この中傷報道です。

この中には無知なものもあれば、故意のものもあり、前述のものは無知の代表と言えるでしょう。

そしてもっと問題なのは、故意の中傷です。

今後自動運転が普及する事で悪影響を受ける業界から、色々な圧力や中傷報道が行われるでしょう。

特に自動車関連産業、運輸、保険業界からの圧力は相当あると思われます。

それから考えると、完全自動運転を真っ先に実現するのは、それらの業界と全くつながりのない、グーグルなのかもしれません。


まとめ


まとめです。

今後自動運転車が普及する事で、交通事故の大幅削減、クルマの減少、交通量の削減、弱者の行動範囲拡大等、大きなメリットが見込めるのは間違いありません。

一方最大の課題である自動運転システムの信頼性については、既に目処は立ちつつあります。

そして今後自動運転の実現を加速させるか停滞させるかについては、中傷報道に惑わされる事無く、我々が正しく自動運転車を理解できるかどうかに掛かっているという事です。

過去においては、コンピュータや出力機器を個人で使える様になったらどうなるだろう、ビデオや大画面テレビや携帯電話が普及したら社会はどう変わるのだろうと思ったものですが、完全自動運転はそれらとは比べものならない程のインパクトはがあるのは間違いありません。

本書が完全自動運転の早期実現に少しで役立つ事を祈っています。



中傷報道に惑わされてはいけない
全自動運転車の可能性と課題)





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