小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
2010/01:発行
2016/05:追記
2016/05:追記
第3章: 馬力とは
(馬力が分かれば、スピードが分かる)
3-1. 1馬力でできる事
それでは、車のカタログに記載されている1馬力とは、どの程度の力(パワー)なのか勉強してみましょう。
これが決められたのは、蒸気機関車が発明された19世紀にさかのぼります。
図1: ワットが発明した蒸気機関車
蒸気機関車が発明されて、機関車がそれまでの輸送の主流であった馬車の何頭分の力があるか知りたくなるのは、当然の事だったでしょう。
図2: それまで移動手段の主流だった馬車
現在自動車等で広く使われている1馬力は、重さ75kgの物体を1秒間に1m持ち上げる力を指します。
ですので、もし1時間(3,600秒)動き続ける1馬力のエンジンがあれば、75kgの物を3.6km(1m/秒×3,600秒=3,600m)持ち上げる事ができるという訳です。
ちなみに75kgは一般的な大人1人の体重で、富士山の高さが3,776m(3.8km)ですので、これを利用して小学生にも分かる様に易しく言うと、1馬力とは、大人1人を1時間のうちに富士山の頂上まで持ち上げる力と言えます。
ですので、1馬力は相当な力です。
ちなみに富士山の五合目から頂上までは、成人で5時間前後掛ります。
単純計算で海抜0mから登って、10時間で75kgの方が頂上まで登ったとしたら、その場合の馬力は1時間に対して10倍の時間が掛ったので0.1馬力になります。
次に荷物を垂直に持ち上げるのではなく、水平に動かす場合を考えてみましょう。
もし荷物が乗った台車を水平に引っ張る力が、この75kgを持ち上げる力と同じであれば1時間に3.6km移動させる事ができるという訳です。
図4: 75kgfの力で3.6km進めば1馬力
ただしこの75kgを持ち上げる力とは、台車に積んだ荷物の重さが75kgという意味ではありません。
例えばここに台車があって、それに75kgの荷物が乗っていたとしても、その台車に車輪が付いていれば、これを押す力はもっと軽くて済むはずです。
75kgfの力とは、下図の様に台車を水平に動かす力が75kgの重りに相当する事を指します。
図5: 75kgfの力とは、75kgの重りに掛かる力と同じ
なお上図を見ると引っ張るのを止めると逆戻りする様に思うかもしれませんが、75kgfの力とはあくまでも台車を引っ張るために必要な力(台車の抵抗)を表しており、手を離すと逆戻りする訳ではありません。(手を離しても止まっています)
多少専門的になるかもしれませんが、図2を更に正確に書くと以下の様になります。
図6: 質量75kgの重りに重力加速度(9.8m/s2)が加わると75kgfの力になる
すなわち、75kgの重りには地球の重力が働くので、台車を引っ張る力の強さは75kgfになるという訳です。
以上をまとめると、図3の様に75kgの重りの付いた台車を1時間に3.6km(1秒間に1m)矢印方向に移動する力(パワー)を、1馬力と呼ぶという訳です。
3-1a. 1Wでできる事
今までは馬力で話を進めてきたのですが、次第に古い単位だけでは肩身が狭くなってきました。
このため、前項と同じ内容をSI単位のワットを使って説明しようと思います。
若い方はこちらをご覧下さい。
先ず1ワットとは、1秒間に1Nの力で1m引っ張る力(パワー)を表しています。
そして1Nとは、地球上で0.1kgの物に加わる力(フォース)を指します。
ですので、これをまとめると以下の様になります。
1ワットとは、地球上で1秒間に0.1kgの物を1m持ち上げる力である。
ちなみに現在の軽自動車の最大出力が38kWです。
ですので、38kWのエンジンがあれば、3800kg(=38000Wx0.1kg/W)の物体を1秒間に1m持ち上げる事ができるという訳です。
さらに、このエンジンが1時間(3,600秒)動き続けるとしたら、3800kgの物を3.6km(1m/秒×3,600秒=3,600m)持ち上げる事ができるという訳です。
また富士山の高さが3,776m(3.8km)ですので、これを利用して小学生にも分かる様に易しく言うと、軽自動車の出力である38kWとは、3800kgの物体を1時間のうちに富士山の頂上まで持ち上げる力と言えます。
ですので、クルマの力は相当なものです。