小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
2017/10: 発行
第7章:トルクに関する誤解
(4気筒エンジンと6気筒エンジンではどちらが優れているのか?)
7-3. バイクの気筒数と加速度の関係
(何故250ccバイクは4気筒の方が加速が良いのか?)
2017/10:追記
2020/01:更新
2020/01:更新
突然ですが、読者の方よりお便りを頂きました。
それによると、昔乗っていたバイクの経験では、排気量が同じであれば多気筒の方が単気筒より断然加速が優れていたという事です。
という訳で、早速メールにあった250㏄のバイクを対象に、いつもの様にトルクウェトレシオ(TWR)とパワーウェイトレシオ(PWR)を算出してみる事にしました。
当然ながら予想としては、単気筒エンジン搭載バイクの方が、PWRは大きいものの、TWRは小さくて加速が良いと思っていたのですが、集計すると全く逆の結果になりました。
下の表は算出した値をTWRの低い順、すなわち加速の良いバイクから順に上から下に並べたリストです。
# | 車名 | 馬力 /回転数 |
トルク /回転数 |
重量 | PWR kg/ PS (速度) |
TWR kg/ kgf・m (加速) |
PWR(青線)と TWR(赤線) のグラフ |
1 | ホンダMVX250F (2cycle) ③ |
40 PS 9,000 rpm |
3.2 kgf・m 8,500 rpm |
155 kg | 3.88 | 48.4 | |||| PWR ||||| TWR |
2 | ヤマハRZ250 (2cycle) ② |
35 PS 8,500 rpm |
3. kgf・m 8,000 rpm |
157 kg | 4.49 | 52.3 | |||| PWR ||||| TWR |
3 | ホンダ初代CBR250R④ |
45 PS 15,000rpm |
2.6 kgf・m 10,500 rpm |
155 kg | 3.44 | 59.6 | ||| ||||| | |
4 | ヤマハジール④ |
40 PS 12,000rpm |
2.7 kgf・m 9,500 rpm |
164 kg | 4.10 | 60.7 | |||| ||||| | |
5 | ホンダCRF250M① |
24 PS 8,500 rpm |
2.3 kgf・m 6,750 rpm |
145 kg | 6.04 | 63.0 | ||||| | ||||| | |
6 |
スズキGSX250S カタナ④ |
40 PS 13,500rpm |
2.7 kgf・m 10,000 rpm |
178 kg | 4.45 | 65.9 | ||||| PWR ||||| || TWR |
7 |
スズキバンディット250④ |
40 PS 14,000rpm |
2.5 kgf・m 10,000 rpm |
169 kg | 4.23 | 67.6 | |||| ||||| || |
8 | ホンダCB250F① |
29 PS 9,000 rpm |
2.3 kgf・m 7,500 rpm |
158 kg | 5.45 | 68.7 | ||||| ||||| | | |
9 | ホンダホーネット250④ |
40 PS 14,000rpm |
2.4 kgf・m 11,000 rpm |
168 kg | 4.20 | 70.0 | |||| ||||| || |
10 | ホンダCBR250R① |
29 PS 9,000 rpm |
2.3 kgf・m 7,500 rpm |
161 kg | 5.55 | 70.0 | |||||| ||||| | | |
11 | ホンダCBR250RR② |
38 PS 12,500rpm |
2.3 kgf・m 11,000 rpm |
165 kg | 4.34 | 71.7 | ||||| ||||| || |
12 | ホンダVTR② |
30 PS 10,500rpm |
2.2 kgf・m 8,500 rpm |
160 kg | 5.33 | 72.7 | ||||| ||||| || |
13 | ホンダVT250F② |
35 PS 11,000rpm |
2.2 kgf・m 10,000 rpm |
162 kg | 4.63 | 73.6 | |||| ||||| || |
14 |
スズキGSX250FX④ |
40 PS 14,000rpm |
2.1 kgf・m 13,000 rpm |
170 kg | 4.25 | 81.0 | |||| ||||| || | |
15 | フォルツァSi① |
23 PS 7,500 rpm |
2.3 kgf・m 6,000 rpm |
192 kg | 8.35 | 83.5 | ||||| ||| ||||| ||| |
なおモデル名の最後に付いた○の中の数字が、気筒数を表しています。
このチャートをご覧頂きます様に、上位2車種のホンダMVX250FとヤマハRZ250は、2サイクルエンジンなので、トルクも馬力も高いのは当然です。
ですので、ここでは2サイクルエンジン搭載バイクは置いておいておくとして、その下の4サイクルエンジン搭載バイクを見ていきます。
すると、何と続く3位のホンダ初代CBR250Rと4位のヤマハジールは、いずれも4気筒エンジンを搭載しているのです。
この2台の最大トルクは2.6 kgf・mと2.7 kgf・mで、1気筒エンジンの最大トルクである2.3 kgf・m前後よりも明らかに上で、更に驚いた事に重量も同タイプの1気筒エンジン搭載車より軽いのです。
思わず、何故?と口走ってしまう様な結果です。
さらにこれを、視覚的に捕えるためにTWRとPWRの散布図にすると以下の様になります。
これをご覧頂きます様に、TWRが低い(加速が良い)4サイクルエンジンのグループは、4気筒、1気筒、2気筒の順になっています。
という事は、ある特定のモデルだけが特別に高トルクという訳ではなく、全体的にこの傾向があると言えます。
何故なんでしょう?
この理由はいつかじっくり探るとして、少なくと今回調べた250㏄クラスのバイクにおいては、気筒数が少ない程、加速が良い(TWRが小さい)というのは当てはまらなくなってしまいました。
ただし、その理屈が100%覆されたかと言えば、そうでもありません。
例として、新旧のホンダCBR250Rを比べてみましょう。
1987年に発売された4気筒の初代CBR250R
この初代CBR250Rは、バブル真っ只中の1987年に発売された事もあり、(今では決して採用しないであろう)4気筒エンジンを搭載していますが、2010年に復活した新型は極めて合理的な1気筒エンジンを搭載しています。
2010年に復活した1気筒のCBR250R
この両者のエンジン性能を見ると、4気筒のCBR250Rの最大トルク(2.6 kgf・m)の発生回転数は何と10,500 rpmで、最大出力は45 PS/15,000 rpmとなっています。
それに対して、1気筒のCBR250Rの最大トルク(2.3 kgf・m)の発生回転数は7,500 rpmで、最大出力は29 PS/9,000 rpmです。
数値を比べ易い様に表にすると、以下の様になります。
モデル\項目 | トルク | 馬力 |
---|---|---|
4気筒のCBR250R | 2.6 kgf・m/10,500 rpm | 45 PS/15,000 rpm |
1気筒のCBR250R | 2.3 kgf・m/ 7,500 rpm | 29 PS/ 9,000 rpm |
気筒数が多ければ、回転数と馬力が上がるのは解るとして、4気筒の方がトルクが上とは、一体どんなエンジンなのでしょう。
生憎ネットを検索してもエンジン性能曲線が見当たらないのですが、最大トルクは確かに4気筒の方が上とは言え、1,000~7,000回転の低中速のトルクは1気筒の方が上なのはまず間違いないでしょう。
ですので、常にレッドゾーンの15,000回転まで回してシフトチェンジすれば4気筒の方が速いのは間違いないものの、せいぜい7000回転以下でギアチェンジを行う一般走行においては、明らかに1気筒エンジンの方が軽快で加速が良いのは間違いありません。
いずれにしろクルマと同様に、レッドゾーンまで頻繁に回さない限り、多気筒エンジンは非常に無駄である、と言うのが(しつこい様ですが)本書の一貫した結論です。
多気筒エンジンのトルクが高い理由
2020/01:追記
本記事を書いてから既に2年以上が経過してしまいました。このまま放置しておく手もあるのですが、もしかしたらお待ち頂いている方もいらっしゃるかもしれないので、なぜ250ccのバイクにおいては4気筒エンジンの方が高トルクなのかというのを書かかせて頂きます。
結論を端的に言わせて頂ければ、恐らくこの時代の4気筒エンジンが高トルクなのは、排ガス規制が無かったからでしょう。
すなわち、燃費は二の次でガソリンをどんどん供給して、多少不燃焼ガスが排出されてもお構いないなしに、どんどん高回転させて無理やりトルクを稼ぐ事ができたのではないでしょうか。
その後徐々に排ガス規制が厳しくなると、さすがにそれではやっていけないので、徐々に妥当な2気筒や単気筒に移行していったのではないでしょうか。
実際2000年代まで(排ガス規制に耐えて)発売された4気筒のスズキGSX250FXは、前述のチャートにおいてTWRは最下位に位置しています。
2000年代の排ガス規制に対応していたGSX250FX(4気筒)のTWRは最下位
もしこのGSX250FXを4気筒の代表として見ると、TWRの順位は見事に1気筒、2気筒、4気筒と理論通りの順になります。
という訳で、1980年後半から1990年代に市場を席捲した250㏄4気筒のバイクは、2サイクルのバイクと同様に、環境に優しくないが故にその時代に高性能を標榜できた時代の寵児だったのかもしれない、と言うのが本書の結論です。
7-3. バイクの気筒数と加速度の関係/第7章:トルクに関する誤解