(二輪駆動車と同じ感覚で乗ってはいけない)
4WD車に乗るならタイヤサイズに気を付けろ
2020/11/08:発行
目次
1. はじめに
早速ですが、こんな話を聞かれた事は無いでしょうか?
4WD車のタイヤがパンクしたとしたら、全てのタイヤを交換しなければならない。
そう聞かれても、長く二輪駆動車に乗り続けていた方は、何を寝ぼけた事を言っているのだと思われるかもしれません。
何しろ、二輪駆動車がパンクすれば、何の疑問も抵抗もなく、単に未使用のスペアタイヤに履き替えれば済む話だったのですから。
実際弊サイトにおきましても、そんな無駄な事をする必要はないと、つい先日まで固く信じておりました。
ところがご存知かもしれませんが、弊サイトにおきまして四輪駆動関連の記事をいくつか書いていく内に、4WD車においてはその機構上、いかにタイヤの均一性が重要かを強く認識するに至りました。
そんな訳で、もし4WD車のタイヤサイズに無頓着な方がいらっしゃいましたら、是非本書を最後までお読み頂ければと思います。
2. 二輪駆動車におけるタイヤサイズ
いきなり4WD車の話をする前に、先ずはFFとFRの二輪駆動車におけるタイヤサイズの違いから、話を進めたいと思います。
先ず一昔前に主流だったFR車の場合、以下の様な構成になっています。
FFの駆動系
この場合、前輪2本は独立して回転していますので、少しくらい外形に差があった所で、多少直進性に影響が出るものの、タイヤや駆動系には全くと言って良いほど影響はないでしょう。
また後輪についても、もし左右のタイヤの外形に多少の違いがあっても、それは左右輪の間にあるデファレンシャルが吸収してくれますので、駆動系には大した負荷は掛かりません。
ただし下のデファレンシャルの解説動画にあります様に、左右のタイヤサイズが同じならばデファレンシャル内の遊星歯車は回転しませんが、左右差があるとこれが回転を始め、僅かながら機械的な損失(摩擦抵抗)が発生します。
すなわち、多少ながらも燃費は悪化し、長い目で見ればデファレンシャルギアの摩耗が進む事になります。
ですので、厳密に言えば全くクルマの寿命に影響を与えない訳ではないというのは、ここで覚えておいて頂ければと思います。
次はFF車です。
FRの駆動系
この場合、上の図にあります様に後輪の2本は独立しており、前輪にはデファレンシャルがありますので、これもFR車と同じと思って頂ければ良いでしょう。
3. 前後輪直結4WD
さてそれでは、いよいよ4WD車です。
とは言え、一言で4WDと言ってもその駆動方式は様々ですので、先ずは一番シンプルな前後輪直結4WDから話を進めたいと思います。
前後輪直結4WDは、パートタイム4WDのセンターシャフトに付いているクラッチをONした状態を指します。
FRベースのパートタイム4WD
ただし当然ながら、これで舗装路を走るのは厳禁です。
なぜなら、この状態で舗装路を走らせると、タイトコーナーブレーキング現象が発生し駆動系を痛めてしまうからなのですが、取り敢えず真っ直ぐ走る事は可能なので、このまま話を続けます。
前後のタイヤのサイズが異なる場合
ではこの前輪と後輪が直結された状態で、タイヤのサイズが違ったらどうなるでしょう。
説明を容易にするため、ここでは前輪のタイヤ2本が大きくて、後輪の2本のタイヤが小さい場合を考えてみます。
このとき、前輪だけを見れば左右のタイヤのサイズは同じですので、(FF車の前輪同様)大した問題はありません。
一方後輪側も、左右のタイヤのサイズは同じですので、(FR車の後輪同様)大した問題はありません。
ところが、これでいざ舗装路を走り出そうとすると、4輪のタイヤサイズが同じ状態と比べると、明らかに負荷が大きくなり、すんなり前に進んでくれないのです。
もう少し具体的に述べると、タイヤが路面を引き摺って走る様な感じになるのです。
このとき路面の状況によっては、タイヤと路面間でズルズルと擦れ音がする程です。
なぜなのでしょう?
その理由は、前後のタイヤの進む量が異なるためです。
例えば、前のタイヤの直径が60cmで、後ろのタイヤの直径がそれより1cm小さい59cmだとします。
一般的なタイヤの溝の深さが大体8mm程ですので、これは新品のタイヤと5部山のタイヤ程度の差だと思って頂ければと思います。
するとタイヤが1回転する間に、前のタイヤは188cm進み、後ろのタイヤは185cm進みます。
タイヤサイズが違うと進む距離が異なる
という事はタイヤが1回転する間に、3cmのずれが生じます。
ところが、タイヤは同じクルマに付いているので、この3cmを誰かがどこかで吸収してくれなくてはなりません。
では誰がどうやって吸収してくれているかと言えば、路面とタイヤが摺られる事によって吸収されるのです。
これは、ブレーキを掛けて止まっている後輪を、前輪が引っ張って3cm進んでいるのと同じ事になります。(正確には、荷重が同じならば前輪が1.5cm遅れ、後輪が1.5cm進む)
ですので、たった3cmですが、これはクルマにとってかなりの負担になります。
例えば、自分が前輪になった気になってみて下さい。
ブレーキを掛けて止まった状態の後輪を3cm動かす事がどんなに大変かを。
更にタイヤ1回転(円周188cm)で3cmの差ですが、もしこの状態で100km走ったとしたら、計算するとその内の1.6kmはタイヤを引き摺った状態で走り続けている事になるのです。
止まっている後輪を1.6kmも引き摺るなんて、どんなにエネルギーを無駄にしている事でしょう。
それだけでしたら、燃費を悪くしてタイヤを余計に摩耗させているだけと思ってしまうのですが、それだけではないのです。
このタイヤの引き摺りに伴う負荷が、走行時に均一に駆動系に掛かってくれればまだしも、タイヤと路面の摩擦抵抗によっては、ある時は強くなってある時は弱くなるという、不均一な状態で掛かります。
するとこの不均等な負荷は、クルマの駆動系に振動(衝撃)として伝わります。
するとこの振動(衝撃)が、駆動系のギアや軸や軸受けに微小ながらもストレスを与えていくのです。
それが長い間続けば、それらを摩耗させていくのです。
すなわち、タイヤのサイズ違いが長く続けば、駆動系をドンドン劣化させる事になるのです。
ここまでご説明したら、4WD車におけるタイヤサイズの重要性をかなり認識して頂けたのではないでしょうか?
愛車の燃費を良くして、尚且つタイヤとクルマを少しでも長持ちさせるためには、タイヤのサイズを均一にしておかなければいけないのです。
ここまでお話しても、まだ半信半疑な方もいらっしゃる事でしょう。
そんな方に衝撃な事実をお伝えしましょう。
下の車両火災は、まさにこの前後のタイヤサイズ違いが原因で発生しているのです。
このクルマもパートタイム4WDなのですが、6人乗車で前後輪直結4WDのまま高速道路を走行したそうです。(詳細はこちら)
それだけでも十分クルマにダメージを与えるのですが、更に前のタイヤは225/75R15、後のタイヤは215/80/15を履いていたとの事です。
という事は、前タイヤの直径は743 mm、後タイヤの直径は725mmと新品状態で18mmの違いになり、1回転で5.6cmの差が生じます。
それでこんなにも大惨事になるのです。
これで本書の言っている事を、信じて頂けるのではないでしょうか。
そんな方に衝撃な事実をお伝えしましょう。
下の車両火災は、まさにこの前後のタイヤサイズ違いが原因で発生しているのです。
このクルマもパートタイム4WDなのですが、6人乗車で前後輪直結4WDのまま高速道路を走行したそうです。(詳細はこちら)
それだけでも十分クルマにダメージを与えるのですが、更に前のタイヤは225/75R15、後のタイヤは215/80/15を履いていたとの事です。
という事は、前タイヤの直径は743 mm、後タイヤの直径は725mmと新品状態で18mmの違いになり、1回転で5.6cmの差が生じます。
それでこんなにも大惨事になるのです。
これで本書の言っている事を、信じて頂けるのではないでしょうか。
タイヤサイズが1本だけ異なる場合
なお今までは、(説明し易い様に)前後2本のタイヤサイズが異なる場合を説明してきましたが、タイヤ1本のサイズが異なる場合も基本的に同じです。
例えば後輪の1本のタイヤの径が60cmで残り3本のタイヤの径が59cmだとします。
すると後輪の左右差はデファレンシャルによって吸収されるものの、理論上後輪のタイヤの径は59.5cmになって前輪が伝わります。
そうなると、負荷は前述の前後のタイヤサイズが異なる場合の半分になるものの、やはりタイヤやクルマにダメージを与える事になるのです。
4. パッシブ・オンデマンド4WD
以上で4WD車において異なるサイズのタイヤを履くと、クルマに相応のダメージを与える事になるのを分かって頂けたと思います。
ですが、そもそも前後輪直結4WDでは舗装路を走行してはいけないので、これから舗装路も走れる4WD車についても、見ていきたいと思います。
下は軽自動車に良く見られる、中央にビスカスカップリングを配したパッシブ・オンデマンド4WDの構成図です。
FFベースのパッシブ・オンデマンド4WD
このビスカスカップリングは、前のタイヤが滑り出す(回転数が早くなる)と初めて駆動を後輪側に伝えますので、前後輪が同じ回転数で走っている限り何の働きもしません。
すなわち、パートタイム4WDのセンタークラッチがOFFの状態と思って頂ければと思います。
ところがここで前後のタイヤサイズが異なると、常にビスカスカップリングがON(正確には半クラッチ)した様な状態になります。
このため、ビスカスカップリングは熱を持ち、燃費を悪化させると共に中のシリコーンオイルをドンドン劣化させる事になります。
そんな訳で前後輪直結4WDほどではないにしても、クルマ自体に悪影響を与える事になります。
5. アクティブ・オンデマンド4WD
アクティブ・オンデマンド4WDは、現在最も多くの車種で使われている4WDシステムで、前輪が滑ったと検知したら間髪を入れずに電子制御カップリングをONして後輪に駆動を伝えます。
FFベースのアクティブ・オンデマンド4WD
さて、これでタイヤのサイズが違ったらどうなるでしょう?
この場合も、本来タイヤは滑っていないにも関わらず、電子制御カップリングはONしてしまいますので、電子制御カップリング内のディスクは熱くなりますし、摩耗もします。
そんな訳で、これまたタイヤサイズが異なると、クルマにストレスを与える事になります。
程度としては、パッシブ・オンデマンド4WDより応答性が良い分、影響は大きいかもしれません。
6. 電子制御フルタイム4WD
続いては電子制御カップリングを使ったフルタイム4WDシステムです。
これは、前後輪のトルク配分に多少違いがあるものの、スバル車を筆頭としたフルタイム4WDに見られます。
スバルのアクティブトルクスプリットAWD(ACT-4)
基本構成は先ほどのアクティブ・オンデマンド4WDと同じですが、アクティブ・オンデマンド4WDは通常二輪駆動なのに対して、本4WDシステムは常時電子制御カップリングをONして4WD走行を基本としています。
ですので、4WDシステムとしては前後輪直結4WDに近いメカニズムと言えます。
このため本4WDシステムにおいては、タイヤサイズの違いによるクルマやタイヤへのダメージは、前後輪直結4WDに近いと言えます。
7. メカ式フルタイム4WD
さて、最後にお伝えしたいのは、前輪と後輪の間にデファレンシャルを搭載したメカ式フルタイム4WDです。
この場合、どれか1輪でも空転したら全く前に進めなくなってしまう事から、一般的にはセンターデフロック機構が付いているのが一般的です。
ただしこのロックをONしてしまうと、既にお話ししました前後輪直結4WDと同じになってしまいますので、今回はそれをOFFしたときの話です。
デフロック機構付きセンターデフ式フルタイム4WD
ではそれをOFFしたときにどうなるかと言えば、仮にどこかのタイヤのサイズが違ったとしても、左右差は前輪もしくは後輪のデファレンシャルが吸収してくれますし、前輪と後輪の差は中央のデファレンシャルが吸収してくれます。
ですので、デファレンシャル内の遊星歯車が回る事による抵抗は多少発生するものの、タイヤのサイズ違いにおけるクルマに与える影響は今までにお話しした4WDの中では一番軽微だと言えます。
8. まとめ
それではまとめです。
今まで順不同で述べてきましたが、タイヤサイズが異なる事で、タイヤやクルマ本体にダメージを与えやすい順に4WD車を順位付けすると以下の様になります。
1 | 前後輪直結4WD |
2 | 電子制御フルタイム4WD |
3 | アクティブ・オンデマンド4WD |
4 | パッシブ・オンデマンド4WD |
5 | メカ式フルタイム4WD (センターオープンデフ搭載) |
6 | 二輪駆動 |
タイヤサイズ違いの影響を受け易い駆動形式
さすがに前後輪直結4WDで舗装路を走る方はいらっしゃらないでしょうが、これを見て何かお気付きになりませんでしょうか?
そうなのです。
雪道に強いクルマ程、タイヤのサイズ違いの影響を受け易いのです。
そんな訳で、もしこれらの4WD車を購入される場合は、上位の4WD車ほどタイヤのサイズ違いには気を付けなければなりません。
さもないと10万km程度で、駆動系のそこら中からゴロゴロ変音が出るかもしれません。
9. 対策
それではおまけとして、もし4WD車でパンクした場合のタイヤを全交換すべきかどうかの目安をご提供したいと思います。
仮に全タイヤが8部山以上で1本パンクした場合、さすがに4本交換はないでしょう。
ですが、4本のタイヤが5部山以下でパンクしたら、本書としましては4本交換をお勧めする次第です。
そうなると、かなりの出費になりますが、本件に関して非常に良い手がありますので、次にそれをご紹介したいと思います。
またついでにお伝えしますと、もし4WD車の中古を購入する場合は、タイヤをチェックしてもし異なるメーカーのタイヤを履いていたら避けた方が無難です。
(二輪駆動車と同じ感覚で乗ってはいけない)
4WD車に乗るならタイヤサイズに気を付けろ
4WD車に乗るならタイヤサイズに気を付けろ