小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)

2010/01: 初版



第18章:速度と加速度
(重量÷馬力が同じなら、どのクルマが早いのか?)



18-1. 一番速いクルマはどれ?


徐々に実用編に近づいてきましたが、ここでまた問題です。

ここに以下の様なクルマが3台ありました。どれが一番速いでしょうか?

なおいずれもドライバーを含む重さです。

タイプ 仕様 1馬力当たりの重さ
小型車   50馬力で重さ 500kg   500kg÷ 50馬力=10kg/馬力
中型車 100馬力で重さ1000kg 1000kg÷100馬力=10kg/馬力
大型車 200馬力で重さ2000kg 2000kg÷200馬力=10kg/馬力

   
小型車         中型車        大型車  

いずれの3台とも、1馬力当たりの重さは10kg(これをパワーウェイトレシオと呼びます)と一緒なので、ほぼ同程度の実力なのはご理解頂けると思います。

ならばどれが速いかですが、答えは簡単で小型車です。

なぜならば、これが一番小さいので、風の影響を最も受け難いからです。

なおここで言う速いクルマとは、最高速度の速いクルマであって、加速が良いクルマではない事はもう分かって頂けると思います。

どれが加速が良いかは、トルクが分からないと回答できないのです。


18-2. 加速の良いクルマはどれ?


ならば早速加速の良いクルマを調べてみましょう。

ここに以下の様なクルマが3台あったとしたら、どれが一番加速が良いでしょうか?
(写真はイメージです)

タイプ 馬力 トルク 重量 TWR
小型車   50馬力/6000回転 10kgf・m/4000回転   500kg 50kg/kgf・m
中型車 100馬力/6000回転 20kgf・m/4000回転 1000kg 50kg/kgf・m
大型車 200馬力/6000回転 40kgf・m/4000回転 2000kg 50kg/kgf・m

   
小型車         中型車        大型車  

いずれの3台とも、トルク1kgf・m当たりの重さは50kg(これをTWR:トルクウェイトレシオと呼びます)と一緒なので、ほぼ同程度の実力(加速)なのはおおよそご理解頂けると思います。

このため、走りだしから数秒間のフル加速でしたら、まだ風の影響も少ない事からどれも大差ないでしょうが、風の影響のある高速領域での加速でしたら、小型車がやはり優れる事になります。

ならばこの様に重さが500kgで馬力もトルクも軽自動車並みのクルマを作れば良いのにと思われるかもしれませんが、小型の車を更に軽くするのは至難の技なのです。

もし軽自動車のコペンにおいて、車重だけ現在の830kgから340kg(2/5)に減量できたとしたならば、GT-Rを追い抜く事も可能なのですが、残念ながら現在の技術ではそこまで減量は不可能です。

ただしある方法で、重さ500kgでトルク10kgf・mのクルマを作る事は可能ですので、その方法を後ほど述べたいと思います。

何だと思いますか?

ヒントは昔懐かしいトヨタS800とホンダZです。




18-3. ホンダZ 対 トヨタS800


トヨタS800とホンダZと言ってもどちらが街乗りで早かったか、という話ではありません。

     
トヨタS800           ホンダZ

トヨタS800が1965~69年、ホンダZが1970~74年の販売ですので、多少のズレはあるもののほぼ同世代と言ってもいいでしょう。

ただしS800は生粋のスポーツカーで、ホンダZはスペシャルティカーとは言え軽自動車ですので、明らかにカテゴリーは異なりました。

ただし共通点は、いずれも空冷2気筒エンジンを積んでいた事です。

今でこそご存じの方は少ないでしょうが、この時代のホンダの軽自動車のボンネットを覗くと、奥の方に見慣れたオートバイのエンジンが排気管もそのままに鎮座し、そこからタイヤに細い鉄の棒が伸びていました。

当時は思わず見てはいけない物を見た様な気がして、慌ててボンネットフードを閉めたものです。

今では、オートバイですら水冷ですので、空冷エンジン搭載の自動車はなかなか想像しにくいのですが、そう言えばポルシェ911も最近まで空冷のフラットシックスを積んでいた事を思いだします。

本記事の最後にまた空冷エンジンが出てきますので、ご期待下さい。




18-1. 一番速いクルマはどれ?/第18章: 速度と加速度




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