小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)

2012/11: 発行
2020/01: 更新

第11章:サスペンション
11-1. サスペンションの話



1. はじめに


駆動方式のついでに、サスペンションの話もしておきましょう。


サスペンションとは、バネとダンパーとそれを支えるアーム部から構成されます。

サスペンションとは、バネ(スプリング)とダンパーとそれを支えるアーム部から構成されます。

    
フロントサスペンション   リアサスペンション

よく写真下の左の物を総称してダンパーと呼んだりしますが、正確には外側がバネ、内側がダンパーになり、二つが一体になってショックアブソーバーと呼ばれますます。

   
ショックアブソーバー(バネとダンパーが一体)   ダンパー      

そして写真右がダンパー単体になります。



バネについては説明不要と思いますが、ダンパーとは注射器あるいは水鉄砲の様に押すのも引くのも抵抗のあるピストンと思って頂ければ良いでしょう。


注射器

実際には下の絵の様にオイルが封入されていたりすのですが、基本原理は同じです。


ダンパー内部


それでは次に、ダンパーとバネの根本的な違いについて、誰も知らない面白い話をお伝えします。

これを知ると、サスペンションの真の仕組みを理解できます。


2. ダンパーについて


それでは質問です。

タイヤに付いているバネは、路面からの衝撃を和らげるためだと誰でも容易に想像できると思いますが、それではダンパーの役目は何でしょう?

もし乗り心地を固くしたり柔らかくしたり調整する物だと思っていたら、それは大間違いです。

何故ならば、乗り心地を固くしたり柔らかくすのでしたら、バネの強さを変えるだけでできるからです。

ダンパーとは、路面の衝撃を受けてバネが伸び縮みして、長い時間車体が上下振動するのを防ぐために付いているのです。

多少難しく言うと、上下振動を早く減衰させるために付いているのです。


ダンパー効果の高い減衰カーブ

もっと力学的な言い方をすると、バネが吸収した衝撃エネルギーを、ゆっくり解放して、振動を抑えるのがダンパーの役割です。

ここで”ゆっくり解放している”と書きましたが、もっと正確に述べると、ダンパーは受けた衝撃エネルギーをゆっくり熱に換えて大気に放出しているのです。

少し脱線するかもしれませんが、前述の注射器を押したり引いたりを繰り返すと、注射器本体が徐々に暖かくなるのが分かると思います。

ところが、バネを縮めたり伸ばしたりしてもバネは暖かくなりません

バネとダンパーの大きな差は、そこにあるのです。

すなわち、バネは衝撃エネルギーを運動エネルギーとして(車体に伝えずに)保持しているのに対して、ダンパーがその運動エネルギーを熱に変換しているのです。

話は元に戻って、一般的にこの振動時間(正確には減衰時間と呼びます)を短くすると乗り心地が固く(悪く)なり、長くすると弱らかく(良く)なる傾向がありますが、この減衰時間は車重、衝撃の強さと時間、バネの弾性係数、ダンパーの減衰率から計算し、さらに繰り返し試作によって煮詰められていくのです。


ダンパー効果の低い減衰カーブ

ですからたまに車高を下げているにも関わらず平坦な道でヒョコヒョコ上下して走っている改造車を見かけますが、これはバネとダンパーのセッティングが完全に狂っているので、走行中に次々に入ってくる細かい衝撃を収束できずに、いつまでも上下に振動し続けているという訳です。


平坦な道でもヒョコヒョコ上下して走っている改造車

また高速道路を走行中に、横を走っているクルマをじっくり観察すると面白い事に気が付きます。

高速道路の継ぎ目を通過すると、国産車の場合どれも2~3回車両が上下に振動するのですが、VWビートルは段差を越えても殆ど上下せずに通過します。


高速道路の継ぎ目を粋(いなせ)に躱す(かわす)新VWビートル

さすがドイツ車と思いきや、乗り心地が良いとされるベンツが4回程度振動したりしています。

路面からの衝撃の種類はそれこそ無数にあるので、これだけでサスペンションの良し悪しを判断できませんが、少なくと日本の高速道路の継ぎ目程度の衝撃でしたら、ビートルのサスペンションがベストチューニングと言えます。

それでは、次にサスペンションが固いと本当にクルマは早いのか、について考えてみます。




3. サスペンションが固いと本当に早いのか?


日本ではサスペンションは固ければ固いほどスポーティーでコーナで早いとする誤った情報により、盲目的に固いバネやダンパーに交換する傾向があります。


サスペンション用のアフターパーツ

この場合は確かに振動はし難い(正確に言うと振動時間が短い)ものの、路面からの衝撃が直接車両に加わるので、車体とドライバーにかなりのダメージを与える事になります。

どなたも経験されていると思いますが、足元がコンクリートの遊園地やショッピングモールを1日歩くと足腰がズッシリ重くなります。

これと同じ様に、サスペンションの固いクルマに乗り続けると、腰や脊髄にストレスを与え続けているという訳です。

当然クルマ全体にもストレスを与えますので、この様な中古車には決して手を出してはいけません。

更にこの様なクルマが速いかというと全く逆で、早い話がサスペンションが無いおもちゃのクルマと同じ事なのです。


おもちゃのクルマは良く跳ねる

実際にこの様なおもちゃを屋外の舗装道路で走らせた方はご存じでしょうが、真っ直ぐ走らそうとしても、ちょっとした起伏の影響で、跳ねるは、曲がるは、ひっくりかえるはで、とてもまともに走ってはくれません。

すなわち、車体自身が路面のからの衝撃に対して、弾んだり/歪んだり/捻じれたりして必死に耐えながら、著しく運動性能を低下させているという訳です。


ショックアブソーバーを搭載したプラモデルは跳ねたり飛んだりしない

ただし同じプラモデルでも、ショックアブソーバーを搭載したラジコン様のモデルでしたら、そんな事はないのはご存知の通りです。

またコーナにおいては、本来サスペンションによって車体が傾いても全タイヤは路面に接地していられるのにも関わらず、サスペンションを固定してしまえば、内側のタイヤは路面から浮いた状態になるですから、まともに曲がれる訳がありません。

サスペンションの有無によるタイヤの位置の違い
  

もし駆動輪が少しでも浮けば、浮いたタイヤにだけに駆動が伝わり、LSDが無ければクルマは失速します。

サスペンションをいじる場合は、くれぐれもご注意下さい。

ついでにもう一つ付け加えておくと、車高の低いスポーツカーは、タイヤが上下する間隔(ストローク)を一般車と比べて長くできないので、必然的にサスペンション(バネとダンパー)を固くする必要があります。

もしこれでサスペンションを軟らかくすると、大きな段差を乗り越える度に、サスペンションが本体のリミッターにぶつかってクルマ自体が大きな衝撃を受ける事になります。

車高の低いクルマは、構造上の理由からもサスペンションが固く乗り心地が悪くなります。

確かに車高の低いクルマは見た目で恰好が良いのですが、クルマの車高が高いのは、当然ながらそれなりの理由があるのです。


4. まとめ


それではまとめです。

①ショックアブソーバーのバネは、タイヤが受けた衝撃を運動エネルギーとして保持し、ダンパーがその運動エネルギーを熱に変換して大気に放出しているのです。

②これによってタイヤが更けた衝撃を徐々に減衰させて、車体への衝撃を減らしている。

③バネ定数とダンパーの減衰係数はメーカーで設定されており、著しく変更するとクルマの上下振動が止まらなかった、路面から衝撃が直接車体に伝わる事になる。

④日本ではサスペンションは固ければ固いほどスポーティーでコーナで早くなると思われているが、余りに固くすると車体が跳ねやすくなると共に、コーナーではコーナー内側の車輪が浮き易くなる


そして次は、同じく間違った理解が蔓延しているスタビライザーの話です。



11-1. サスペンションの話し/第11章: サスペンション




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