ターボチャージャーの仕組み

はじめに


読者の方よりターボチャージャーについて取り上げてほしい、とのリクエストを頂きました。

それによると社外製ターボチャージャーに関するHPを見たものの、今一つ良く分からないとの事です。

ならばと安請け合いをして書き始めたものの、途中からパンドラの箱を開けてしまった事に気が付きました。

どういう結末になるか薄々予想できるかもしれませんが、箱の中身が知りたい方だけお読み下さい。


ターボチャージャー


さてターボチャージャーの概要ですが、これはもうどなたもご存じでしょう。

サードパーティーのHPには、以下の様に説明されています。

エンジンから排出された排気ガスのエネルギーを利用し、タービンを回すことによって同軸上のコンプレッサーを回し、空気を圧縮してエンジンへより多くの空気を送り込み、高出力を得る装置です。

タービン コンプレッサー   

ターボチャージャーの仕組み

と、聞けば良い事だらけの気がしてしまいますが、ここには大事なことが抜け落ちています。

それは、空気を多く取り込んだだけで出力がアップする訳ではなく、それと共に燃料も多く噴射している事です。

供給する燃料を増やす事なく、空気だけ多くエンジンに取り込んで、それだけで出力がアップする夢の様な装置は存在しません。

実は業者のHPを見ると、故意かどうは不明ですが、この様に肝心な記述が抜けて落ちているのです。

これでは分かり難い筈です。

実はこれはまだまだ序の口でしかありませんでした。


ブースト圧


次はブースト圧です。

ターボチャージャーによってエンジンに送り込む圧縮した空気の圧力を、ブースト圧(過給圧)と呼びます。

ボイルの法則により、温度と容積が一定ならば、充填する空気が増えればそれに比例して圧力も増えますので、ブースト圧を知ればエンジンに送る空気の量が分かるという訳です。


気体の体積を半分に圧縮すれば圧力は2倍になる

このブースト圧を読み取るのが、ご存じブースト計になります。


ブースト計

純正のブースト計はヒューエルインジェクションコンピューターが吸気管圧力センサーの信号を基に表示していますが、社外品のブースト計は以下の様に吸気管に接続されています。


なおこのメーターの単位ですが、-100kPa~200kPaは良いとして、中には-1kg/cm2~2.0kg/cm2、更には-760mmHg~2.0kg/cm2というのもあり、この単位を見ただけで心配になってきます。

なおブーストメータが0のときに1気圧になりますので、ブーストメータが100kPa(正確には101kPa)を指せば、大気圧の2倍の空気をエンジンに押し込んでいる事になります。

ですので、理論的には2倍の排気量のエンジンになる筈です。


バイパスバルブ


エンジンの回転数が上がり、タービンが勢い良く回れば、その分どんどん空気と燃料がエンジンに送り込まれますので、最悪の場合エンジンが破損する恐れがあります。

これを防ぐのが、排気系に設けられたバイパスバルブです。


これが何をするかと言えば、ブースト圧が必要以上に増加した場合、このバイパスの前に設けられたバルブを開けて、排気ガスをタービンに当てずに排気管に逃す働きをします

もっと分かり易く言えば、エンジンを壊さないための安全弁の様なものです。

ただし実際には、温度、気圧等の環境条件、或いはアクセルの踏み込み状況によって最大ブースト圧を微妙に変化させるために、車載コンピュータが更に細かくバイパスバルブを制御しています。


車載コンピューターは過給圧制御ソレノイドバルブを使って最大ブースト圧を調整する

上の図にあるバイパスバルブに追加されている過給圧制御ソレノイドは、そのためのものです。


バイパスバルブは2種類


このバイパスバルブにはアクチュエーター式とウエストゲート式があり、どちらもブースト圧が規定値になると排気バイパスを開き、排気管の圧力を逃がしてブースト圧をそれ以上に上がらないようにします。


余談ですが、この名称(アクチュエーター式とウエストゲート式)は、どうやら業界用語の様でかなり奇妙な名前の付け方になっています。

何故ならば、アクチュエーターとは作動装置の事で、一般的にはピストンとかソレノイド等の切り替え装置を指します。

とすると、いずれもバルブをON/OFFする切り替え装置が付いていますので、アクチュエーター式とも呼べます。

一方ウエストゲートとのウエスト(WASTE)とは、無駄とか廃棄という意味で、そう意味では両方ともウエストゲートとも呼べます。


時間の無駄使いは止めようの看板

ちなみに作業場でボロ布をウェスと呼びますが、このウエストから来ています。

実際、下の図を見比べて、アクチュエータ式とウェストゲート式の根本的な違いは誰にも分からないと思います。


アクチュエータ式



ウェストゲート式

ではどこが違うかと言えば(話が長くなってしまいましたが)、アクチュエータ方式はバイパスがターボチャージャー側に付いていて、ウェストゲート式はバイパスが排気管側に付いているというだけの違いです。

  

こんな話さほど重要ではないと思うのですが、サードパティーからすると重要らしくて、以下との事です。

アクチュエーター式はターボチャージャーと一体型にする都合上バイパス経路の開口部を大きくできない反面、ウエストゲートはタービン手前の排気管に配置できますので、パイパス経路の開口部を大きくできるというメリットがあります。

アクチュエーター式は純正品や小型のターボチャージャー、ウエストゲートは大型のターボチャージャーで採用されます。

という事は、どうやら大型ターボチャージャーへの呼び水の様です。


ブーストアップ


ブーストアップとは、本来ターボチャージャーによってエンジンへ送り込む空気の圧力を高めることを指しますが、業界ではターボチャージャーに手を加えてオリジナルよりエンジン出力を高めるという意味で使われている様です。


自動車メーカーの純正ターボチャージャーにおけるブースト圧は、当然十分な安全率を元に決められています。

これに対してサードパティーにおけるターボチャージャーのチューニングは、まだ多少安全率に余裕があるだろうと考えて、ブースト圧をオリジナルより高くしてエンジンの出力をあげ様という魂胆です。

ブースト圧を上げる具体的な方法は、アクチュエーターにかかるコンプレッサーの圧力をEVC(電気式過給圧コントローラー)と呼ばれる社外製のコントローラーで制御するのが一般的の様です。


ちなみに、最も簡単な方法として、オリジナルのアクチュエーターのバネを強化タイプに交換する手もあります。

なおここで重要なのは、ブーストアップ自体は社外部品を追加すれば比較的簡単にできますが、それ以外の燃料噴射等の制御自体はオリジナルのシステムのままですので、ノッキングや燃調、ブーストカットなど複雑な問題があり、最悪エンジン破損につながる恐れが多分にあるという事です。


ブーストアップの効果


そうは言っても、お金に余裕があったらブーストアップを考えてみようかと思われた方はいらっしゃいませんでしょうか?

もしそうだとしたら、次は下のチャートをご覧ください。


これはエンジンの回転数とブースト圧の関係を表したグラフです。

先ずこのブルーのラインが、メーカー設定のオリジナル状態だとします。

それに対して茶色のラインが、社外品の部品を取り付けて、ブーストアップした場合です。

ご覧の様にブースト圧もオリジナルより早く立ち上がり、最高ブースト圧もオリジナルより高くなっており、これがエンジンの許容範囲内であれば、まさに理想的と言えます。

恐らくこれで文句を言う人はいないでしょう。

ただし、後付けの部品を付けただけで、こんなにうまくいくものでしょうか。

オリジナルよりブースト圧のゲイン(傾斜)を強くして、なお且つ限界値を高めたとなれば、茶色のグラフの様にオーバーシュートして、ブースト圧にムラが生じる可能性は十分あります。

当然ながらオリジナルにおいても多少のオーバーシュートは発生するでしょうが、誰がどう考えてもそれよりオリジナルより不安定になるのは間違いないでしょう。

サードパティーの呼ぶチューニングによって、もしかしたらある特定の条件下では最良の設定が可能になるかもしれませんが、気温や気圧等の環境の変化、或いはアクセルの踏み方の違い等、全ての組み合わせにおいて最良の設定にするのは不可能と思うのが妥当なのではないでしょうか。

それでもブーストアップをやりたいですか?


タービン交換


更にもっと無駄と思えるのが、次のタービン交換です。

社外品の宣伝では以下の様に述べられています。

純正タービンでは最大馬力の限界が低く、ブーストアップで満足できない場合は高風量のタービンに交換する。


ところで、単純に考えると同じエンジンなら、小さいタービン(ノーマルなど)によって過給するのと大きいタービンで過給した場合、同じ過給圧なら同じ馬力になるように思えるが、実際は大きいタービンの方が馬力が出る。

これはタービン自体の効率の違いによるもので、タービンのサイズによって効率の良いブースト圧(空気流量)があり、効率の悪いブースト圧で使用すると過給された空気の温度が上昇して空気密度が下がり、同じブースト圧でも実際の空気量が少ない結果となる。

このブースト圧の効率に関する真偽はともかくとして、大型ターボを搭載した場合のブースト圧のグラフを先ほどのチャートに載せてみると、この無駄さが良く分かります。

下の赤線が、ターボチャージャーを大きくした場合のブースト圧を示します。


ターボチャージャーが大きくなれば、当然オリジナルよりタービンの回転は遅くなりますので、ブースト圧の立ち上がりは遅くなり、傾斜も緩くなります。

一方最大ブースト圧は、ターボチャージャーを交換する前と同じ所で抑えなければなりません。

となると上のグラフの様に、むしろターボチャージャーを交換する前の方が間違いなく効果は上です。

これを見て、ターボをわざわざ大型品に交換する人はいないでしょう。

むしろ、ターボチャージャーは小型にした方がよほど合理的です。


インタークーラー


最後はインタークーラーです。

サードパーティーの説明は以下の通りです。

インタークーラーはタービンによって圧縮され、熱をもった空気を冷やすことによって、空気密度を高めるための熱交換器(冷却装置)です。


ブーストアップやタービン交換と同じように、多く行われるチューニングにインタークーラーの追加や大容量タイプ(効率の良い物)への変更があります。

良いインタークーラーとは、空気が通過する時の抵抗(圧損)が少なく、できるだけ温度を下げる(冷却)ことができるものになるが、このふたつの要素は相反する条件であり、両条件を共に向上させるのは非常に困難です。

インタークーラー自体、今どき軽自動車でも付いていますし、今時のエンジンルームは殆どスペースもありません。

わざわざ換える必要があるの、と言った所です。


まとめ


月並みな結論で恐縮ですが、まとめると以下の通りです。

1. ターボチャージャーのバイパスバルブの動作タイミングを変更すれば、比較的簡単にブーストアップを図れるかもしれないが、環境変化やラフなアクセルワークにも適応した安定した制御はかなり難しいと思われる。

2. 大型ターボチャージャーの交換は、無駄以外の何物でもない。

3. 小型でレスポンスの良いターボチャージャーが一番合理的な選択である。


そして最後にこの話もさせて下さい。

今までに何度アクセルを一杯に踏み込んだ事がありますでしょうか?

そう聞かれれば何度かあると思います。

ですが、何秒間踏み込み続けたでしょうか?

恐らく数秒ではないでしょうか?

もしそうならば、ブーストアップの必要はあるのでしょうか?




ターボチャージャーの仕組み





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