小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
第15章:タイヤの話Ⅰ
(タイヤに関する余りにも多くの誤解を一掃する)
15-1. タイヤは太い程グリップは良いのか?
恐らくこれをお読みになる大多数の方は、タイヤは太い程グリップは良くなると思われている事でしょう。
実際レーシングカーはやたらに太いタイヤを履いています。
太いタイヤを履いたレーシングカー
どころが全くそんな事はないのです。
すなわち、タイヤを太くしてもグリップは変わらないのです。
そんな訳はないと思われる方に、質問です。
以下の図の様に、倉庫の作業員が段ボールの箱を床を滑らせながら運んでいました。
この場合、箱を寝かせた場合と立てて滑らせた場合で、どちらが楽に(軽く)動かせるでしょうか?
何となく接地面積が小さい方が押す力も小さくて済む様な気がしますが、どちらも押す力は同じなのです。
もし手元に消しゴムがあったら、机の上で立てた場合と寝かせた場合でどちらが重いか鉛筆で押してみれば、感覚的に分かって頂けると思います。
これが何を意味するかと言えば、段ボール箱と床との摩擦抵抗は、接地面積の大きさにはまったく関係しないという事です。
もしまだそんな事はないと思っている貴方に、衝撃の事実をお教えしましょう。
なんと、貴方が中学校の頃に習った理科の教科書にこう書かれているのです。
物体と物体の摩擦力は、その接触面積にはよらず、荷重に比例する。
そして、摩擦力(F)=摩擦係数(μ)×荷重(P)である。
そして、摩擦力(F)=摩擦係数(μ)×荷重(P)である。
どうです?
これで納得して頂けましたでしょうか?
摩擦力の計算の中に、面積は一切入っていないのです。
これをタイヤに当てはめてみると、誰もがタイヤは太い(接地面積が大きい)方がグリップが良いと思っているのですが、実は全く関係しないという事です。
すなち、タイヤが太くても細くても、グリップ(摩擦力)は全く同じなのです。
だとするとなぜF1をはじめとするハイパフォーマンス車のタイヤが太いかと言うと、細いタイヤだと耐久性が足りないからです。
もう少し詳しく説明しますと、太いタイヤにすると単位面積当たりの荷重が小さくなるので、その分耐久性に優れる(摩耗し難い)という訳です。
ですので、例えばF1カーのタイヤを大きくして接地面積を2倍にすれば耐久性も2倍になるので、タイヤの交換回数を半分に減らす事ができます。
タイヤの接地面積を2倍にすればタイヤの耐久性も2倍になる
ただしそうすると荷重も増え、空気抵抗も増えるので、総合的に判断して一番妥当な大きさに抑えているのです。
例え話を段ボールに戻すと、床と擦った事による段ボール底面へのダメージは、接地面積の広い寝かした場合より、接地面積の狭い立てた場合の方が大きいといえばイメージし易いでしょうか?
なお本項につきましては、その後多数の反響を頂き、追記に追記を重ねましたので、別冊にさせて頂きました。
ですので、本件について更に詳しく知りたい方は、こちらにお進み下さい。
15-2. 扁平タイヤのコストパフォーマンスは?
次に流行りの扁平タイヤですが、本当にコストに見合う価値があるのか考えてみましょう。
結論から先に述べ言いますと、アルミホイール同様、余程無謀な運転をしない限りコストに見合う実質的な効果は無いと言えます。
以下はブリジストン(株)が公表している扁平タイヤの特徴です。
1.操縦安定性が向上する
2.コーナリング性能が向上する
3.ブレーキング性能が向上する
4.乗り心地が硬めになる
5.走行音が大きめになる
扁平タイヤは厚みが薄くなる分、横方向の力が加わるコーナリング時に変形し難く、接地面積が変化し難いという明確な特徴があります。
このため1~3の効果は、サーキットでそれなりのスピードで走行すれば体感できるのでしょうが、通常の走行ではかなり無理な運転をしなければ殆ど実感できません。
一方4~5の短所については、数m走っただけで誰でも気が付く程悪化します。
これも良く言われる事ですが、普段使うスピードは時速100km程度であっても、時速200kmで走るクルマの方が安全性能は高い、と言われますが本当でしょうか?
タイヤの場合でしたら、例えば普段時速70kmで走るコーナがあったとして、扁平率65%の限界速度が時速100km、扁平率55%の限界速度が120kmだとしましょう。
この場合、確かに限界までのマージン(余裕度)は、扁平率55%の方が高いのですが、時速70kmで走っている限り安全性には全くと言って良いほど差はありません。
もしコストが同じで且つ弊害が何も無いのならば、当然限界に対するマージンは大きい方が良いのですが、扁平率が低くなると極端に価格が高くなり、且つ乗り心地も悪くのを考えると、一般のドライバーにとって扁平化のメリットは無いと断言できます。
さらに付け加えると、タイヤの扁平化に伴いホイールもインチアップが要求され、ホイールのコストもアップする事を忘れてはなりません。
繰り返しになりますが、一生の内に経験するかどうか分からない限界走行のために、乗り心地を犠牲にしさらに余分なコストを支払う意味は見出せません。
第15章:タイヤの話Ⅰ