小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
第17章:クルマの空力特性
(後付けエアロパーツは百害あって一利無し)
17-1. 空力特性の基礎
お待たせしました。 それでは空力特性です。
空力性特性と言うと、何故か一気に風洞実験だの、飛行機の翼を書いたベンチュリー効果にまで話が飛んでしまうのですが、その前に紙と鉛筆だけで分かる(兼、知っておかなければいけない)事があります。
先ず下左の絵を見て下さい。
かなり単純化した絵ですが、これが普通のクルマだと思って下さい。
普通のクルマ スーパーカー
そのフロント部が受ける風の力を全てまとめたのが、太い青の矢印だとしましょう。
この力を分解すると、緑と黒の矢印に分かれます。
緑の力(矢印)はクルマのフロントカバーに沿って流れてしまいますので、クルマ自体には加わりません。
クルマに加わるのは、黒の力(矢印)だけになります。
次にこの黒の力を更に分解すると、クルマの進行を妨げる力の赤い矢印と、クルマを地面に押しつける力の紫の矢印になるという訳です。
ただこれだけ分かっても、だから何だと思われるでしょう。
これにどんな意味があるかを知るには、何かと比較してみる必要があります。
そこで見て頂きたいのが右の絵です。
左のクルマよりフロンの傾斜がきつくなっていて、これをスーパーカーだとします。
このクルマに、同じ様な青い矢印の力が加わったしますと、どうでしょう?
左のクルマと比べて、緑の矢印が長くなるのに伴って、クルマの進行を妨げる力の赤い矢印も、クルマを地面に押しつける力(ダウンフォース)の紫の矢印も小さくなっているのが分かります。
これから分かる様に、フロントの傾斜がキツイクルマ程、風によるクルマの抵抗は小さくなるのです。
ベンチュリー効果を語る前に、先ずはこの単純な風の力を知っておく必要があります。
なお上図の場合、クルマの高さ(正確には全面投影面積)も異なりますので、風から受ける力も大きく異なるのですが、先ずはフロントの傾きがどう影響するかを理解しておきましょう。
17-2. クルマのウィングは効果があるのか
以上が分かった所で、それではクルマ(一般車)に付けるウィングの効果は本当にあるのか考えてみましょう。
先に結論を言ってしまいますと、残念ながらありません。
一般的にウィングを付けるのは、ダウンフォースを稼ぐためだと言われています。
確かにレーシングカーの場合、そのために大きなウィングが付いていますが、一般車にも本当に役に立つのでしょうか?
前節で述べました様に、ダウンフォース(紫の矢印)を得るためには、角度の付いたウィングを付ければ良いのですが、そうすると必然的にクルマの進行を妨げる赤い力も増えます。
レーシングカーの場合、既にエンジンの性能がタイヤの性能を上回っているため、多少馬力を損してでも、タイヤのグリップを高めるためウィングを付ける意味があります。
さらにレーシングカーはウィング(空力)の効果が出る、時速100kg以上のスピードで、頻繁に減速したり、曲がったり、更には加速したりしますので、ウィングを装着するメリットは十分あります。
しかしながら一般車はどうでしょう?
時速100kg以上のスピードで、一気に減速したり、加速したり、更には鋭く曲がったりしますでしょうか?
もしかしたら危険を避けるためにあるかもしれませんが、それ以外はグリップをさほど必要としない等速で走り続けている訳です。
すなわち、普段真っすぐ走っているだけにも関わらず、ウィングを付ける事によって常時無駄に馬力をロスしてスピードも遅くなり、燃費も悪くしているという訳です。
もっと分かり易く言うと、風の抵抗を受けるウィングを付けるという事は、ブレーキを踏みながら走っているのと同じ事なのです。
さらには突然の横風に対しても挙動が不安定になりますし、当然余計な風切り音も発生しますので、恐らく風の強い日に走ると相当疲れるのではないかと思います。
では弊害を少なくしてダウンフォースを得るには、どうすれば良いのでしょうか?
17-1. 空力特性の基礎/第17章: クルマの空力特性