完全自動運転に関する稚拙な記事に物申す
”自動運転車の実用化は間近の大いなる錯覚”の無知無学

2017/04:発行

目次


 1. はじめに
 2. 問題の記事
 3. こんな速度は有り得ない
 4. こんな車間距離は有り得ない
 5. まとめ





はじめに



もしかしたら、既に読まれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

2017/3/31の日経電子版で、”「自動運転車の実用化は間近」の大いなる錯覚”なるタイトルの記事がアップされました。


以前弊サイトにおきましても、完全自動運転の実現を妨(さまた)げるものは、不安を煽る不正確な情報だと述べた事があるのですが、まさしくこれがその記事の一つと言っても良いでしょう。

恐らくこういう記事を読んで、情けなく思っている完全自動運転車の開発者も多数いらっしゃると思いますので、その方々に代わってこの記事の稚拙さを指摘したいと思います。

なお以下当該記事原文を青字で、本書の指摘を黒字に示します。


問題の記事


前略

現実的な手段としては、人間があらかじめ定義・プログラミングする方法が選ばれる可能性が高いが、それにも大きな問題がある。定義するためには、切迫した事態における選択の優先順位を設定する必要がある。事故に巻き込まれる人間も点数化できるのであれば、設定が可能となるが、そもそも人間を点数化することなどできない。


 人間の点数化が困難であることの例を挙げてみよう。あなたは家族と自動運転車に乗っている。ある街に差し掛かった際に、道路の右側に学校帰りの子供たちが列をなしており、左側にはお年寄りが花見をしている。その時、目の前の大きなトラックが急ブレーキを踏んだ(図2)。



もはや、今から急ブレーキをかけても衝突は避けられないし、衝突したら家族に生命の危険が及ぶ。とはいえ、衝突を避けるためにはハンドルを切らねばならず、子供たちとお年寄りのどちらかに生命の危険が及ぶだろう。そんな切迫した事態に、自動運転車はどのような対応を取るのか。

 「被害人数の少ない方法を取るべき」「未来ある子供たちを優先するべき」「他人を巻き込まずトラックにそのまま衝突をすべき」など様々な判断があるだろう。どの判断を下したとしても、それが正しい、悪いとは筆者としては一概に言えないし、読者の意見も割れるはずだ。

後略

いかがでしょうか?

これを素直に読めば、完全自動運転の実現に当たって、それは非常に難しい問題だと思われる方もいっらしゃるかもしれません。

しかしながら本書は違います。

これこそ正にフェイク記事です。




こんな速度は有り得ない


先ず1点目の指摘は、この非常識な速度です。

今までに、片側1車線で両側にガードレールも無い道で、尚且つ周囲に子供や老人が居る生活道路で、時速55kmで走行できる道を見た事はありますでしょうか?


いくら説明用だとしても、余りに非現実的です。

日本の一般道での法定最高速度は時速60kmです。

では時速60kmはどんな道かと言えば、片側2車線以上で両側にガードレールのある主要幹線道路です。

もしこの絵の様な通学路で、合法的に時速55kmで走れる道があったら、一度見てみたいものです。


もしその様な道があったら、人は怖くて歩けませんし、間違いなく歩行者から苦情が寄せられまし、公安員会も責められます。

完全自動運転車について語るのでしたら、最低限現行の道路交通法と現況の道路交通行政について、もう少し勉強してからにしてほしいものです。

この様な生活道ならば法定速度は、間違いなく30km以下です。

とは言っても、スピード違反をすれば55kmで走行する事は可能です。

ただしそこが完全自動運転の大きなアドバンテージなのです。

完全自動運転車は、人間と違ってスピード違反をしない様にプログラムされているのです。

ですので、余程の事が無い限り制限速度を超えて走行する事は決してありません。

ここで余程の事と言うのは、限定された条件下での危険回避行動を指しますが、道交法には認められていないので、限りなくゼロに近いと思うべきでしょう。

更に言えば、例え制限速度が時速30kmだとしても、完全自動運転車が周囲に人を認識すれば、更にスピードを落とす様にプログラムされるでしょう。

ましてや、横断歩道の近くで人を認識したら、停止して道を譲る様にもプログラムされているのです。

ですから、この様な道で完全自動運転車が持続55kmで走行する事は有り得ない話なのです。

さもなければ、完全自動運転車を公道で走らせる許可など誰も与えません。

法定速度は決して越えず、子供が飛び出しそうな住宅街では更に速度を落して走行し、万一子供が飛び出しても安全に停止する。

それこそが、完全自動運転車なのです。


こんな車間距離は有り得ない


次の指摘は、車間距離です。

この絵では、時速55kmで走行していると言いながら、車間距離は横断歩道の幅しかありません。

イラストだから多少オーバーに描いているとしても、これも有り得ない話でしょう。


この筆者は、完全自動運転車だけでなく、フェイルセーフとかフループプルーフと言った、システムの安全性に関する知識も持ち合わせていない様です。

完全自動運転車は、常に前車が急ブレーキを踏んでも安全に停止できる車間距離を維持して走行する様に作られています。

ですからもし時速55kmで走行するとしても、それに足る車間距離を常時維持して走行するのです。

となると、車間距離が恐ろしく長くなると思われるかもしれません。

確かに時速50kmにおける停止距離は、空走距離(危険を感じて、ブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでに車が進む距離)が14mで、制動距離(ブレーキが効き始めてから車が停止するまでに進む距離)が18mですので、トータル32mにもなります。

ところが、ここにも完全自動運転車の大きなアドバンテージがあるのです。

完全自動運転車は、人と違って危険を感じてからブレーキを掛けるまでの時間がそれこそミリ秒単位で行われますので、この空走距離を限りなくゼロにできるのです。

ですので、実質的に車間距離を半分程度に抑えられるのです。

車間距離を抑えた上で、前車が急ブレーキを踏んでも決して追突しない。

それこそが完全自動運転車なのです。


まとめ


大手メディアはネットの情報をフェイクニュースと呼びますが、先ずは自分たちの足元から見直してほしいものです。

いざとなったら何を犠牲にするかなどといった考えは、余りににも稚拙な発想で、読んでいるだけで恥ずかしくなってします。


従来クルマの安全対策は、事故が発生した場合の被害をいかに最少にするかのパッシブセイフティーが主流でした。

またアンチロックブレーキの用にアクティブセイフティーを目指した機能もありましたが、人が操作する以上まだまだ限界がありました。

それに対して完全自動運転車は、いかに事故を未然に防ぐかの100%アクティブセイフティーを目指したクルマなのです。

そういう意味では、完全自動運転車の事をアクティブセイフティーカー(予防安全車)と読んだ方が適切かもしれません。

言論の自由があるので、何を書くのも自由ですが、日本の大手新聞社の良識もこの程度なのかと思うと、少々情けなくなってしまいます。

その昔、写真を撮られると魂が抜き取られるといった迷信がありました。

この話は、それに似た類(たぐい)だと言ったら、言い過ぎでしょうか。




”「自動運転車の実用化は間近」の大いなる錯覚”の無知無学




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