小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)

2010/01: 発行
2020/01: 更新

第10章:駆動方式 II
(FFとFRどっちが速い?)



10-7. 雪道で路肩に落ちている車両は?


雪道で思い出しましたが、まれに雪道を走ると路肩にスピンして救援待ちのクルマを見かけます。

そのクルマの種類ですが、何となく最も滑りやすいFRより、滑りにくい4WDやFF車が多い様な気がしますがいかがでしょうか?


もし統計上もそうだとしたら、理由は簡単です。

FR車は低速でも雪道で後輪が滑るため、ドライバーが慎重に運転するのに対して、4WDやFF車の場合滑り難い事からついついスピードを出してしまい、あるときグリップの限界を超えた瞬間に突然大きく滑り出してしまうためです。


10-8. 駆動方式のまとめ


駆動方式について理論的な差が分かった所で、まとめです。

恐らくこの記事を読む前でしたら、スポーツカーはFR、なぜならばFRは早いからだと思っていたのではないでしょうか?

もう気が付いて頂いたと思いますが、それは間違いです。

すなわちFRはクルマの中で最も簡単に曲がれて、且つ早くから後輪が滑り始める事から、一番安心してカーブを攻められるという訳です。

それに対してFF(更には4WD)は、FRよりも簡単には曲がらず、且つ滑り難い(安定性が高い)分限界を超えると一気に滑り出すので、FRよりカーブでの運転が難しいという訳です

すなわち、スポーツカーにFRが多いのは、カーブでの運転が一番楽で安全だという訳で、もし運転技術が高く突然のスピンに十分対応できる技量があれば、FF(更には4WD)の方が速いのは間違いありません。

ついでに言っておきますと、ラリー選手権を見る様にFFも4WDもドリフト走行は可能ですが、とにかくFRよりも限界が高いため、素人ドライバーではFRほど簡単にはドリフトできないという訳です。

この章のまとめです。

カーブで限界性能の高い(スリップしにくい)のは以下の順番ですが、限界を超えた場合の危険性も同じ順番になります。
4WD >FF>FR

このため雪道等滑りやすい路面を走る機会が多ければ、左側の駆動方式ほど安全のためアンチロックブレーキ、トラクションコントロール、或いは横滑り防止装置を付ける事をお勧めします。


10-9. FFとFRどっちが早い


前項でFRよりFFの方が走行性能は高いと説明したのですが、実際にFF車とFR車をレース場で速さを競ったらどうなるでしょう?

例えばホンダのCIVICタイプR(FF)とS2000(FR)でしたら、排気量が若干異なるものの同じ時代の同じメーカのクルマですので、比較するには丁度良いと思います。

  
CIVICタイプR              S2000

項目\モデル CIVICタイプR S2000
重量 1,320kg 1,260kg
馬力 201PS /7,800rpm 242PS /7,800rpm
トルク 19.7kgf・m/5,600rpm 22.5kgf・m/6,500rpm
PWR 6.57kg/PS 5.20kg/PS
TWR 67.0kg/kgf・m 56.0kg/kgf・m

上の表をご覧頂きます様に、S2000の方が馬力もトルクも上で、なお且つ車重も軽いので、恐らく誰もがこちらの方が速いと思われるでしょう。

そのレースの模様が、うまい具合にYou-Tubeにアップされていました。

CIVICタイプR vs S2000のレース動画

これをご覧になる様に、多少のチューニングの差があったとしても、なぜ誰も予想していなかったタイプRの方が速かったのでしょうか?

理由はいくつかあるでしょうが、駆動輪により多くのトラクションの掛るFF車の方が、FR車よりも明らかに走行性能が高い事は分かって頂けると思います。




10-10. RRの基本性能とポルシェ911


今まで余りに特殊なので殆ど触れなかったのですが、最後にRR(リアエンジン/リアドライブ)について述べておきましょう。

RRの代表と言えば、どなたもポルシェ911を思い浮かべるでしょう。


RRの代表格ポルシェ911

そして誰もがスポーツカーとして長所だらけと思うわれるのですが、実は下記します様に基本特性は決して優れたものではありません。

【長所】
①駆動輪に荷重が加わわっているため、加速には最も適している。また雪道でもFRよりもスタックし難い。

②ブレーキング時には前輪に荷重が加わるものの、後輪にタップリ荷重が残っているので、前後輪のバランスのとれた安定した減速ができる。(ノーズダイブし難い)

【短所】
①前輪荷重が小さい(前輪タイヤのグリップが弱い)ので、通常はアンダーステアーとなる。(ハンドルを切っても、フロントエンジンのクルマより素早く曲がらない)

②更に限界を超えると、重いリア側が遠心力で前に出ようとして後輪側が一気に滑り出すので、強いオーバーステアー(FRと違って、殆ど制御不能のドリフトとなる)となる。

RR車は、高速コーナーで限界を超えると強いオーバーステアになる

③車両後部が重いので、直進性能が(前部が重いFF、FRより)劣る。
具体的には高速(特にアクセルを離して惰性)で走っているときにハンドルを離すと、何か拍子でクルマが反転する恐れがある。

という訳で、加速性能とブレーキング性能以外は全て他車より劣るという事になります。

ところがご存じのポルシェ911は、上記の欠点を克服し、更にいまだにモータースポーツの第一線で活躍している事は正直脅威としか言えません。

実際RRの欠点を知り尽くしているポルシェも、何度かFRへの転向を図ったのですが、熱狂的なRR(911)の支持者によってことごとく退けられてしまいました。

 
FRへの転換を図ったポルシェ924と928

なおあくまでも筆者の推測ですが、911のフロント部の強い傾斜は高速時に空力で前輪荷重を増やしているのではないかと思いますが、いかがでしょうか?


911の強いフロント傾斜は、前輪の荷重を増やすためではないか?

また一般的にリアスポイラーの役割は、後輪のダウンフォースを増やすのが目的なのですが、911の場合弓矢の羽の様に直進安定性を向上させるため(もしくは高速でフロントのダウンフォースが余りにも強くなるため、それを打ち消すため)に付いているのではないでしょうか?

  
911のリアウィングは弓矢の羽根の様に直進安定性を向上させるためではないか?

話が空力にまで飛んでしまいましたが、もし911に乗る機会があったら、

①高速での直進安定性と低中速での前輪のグリップがフロントエンジン車より劣る
②高速コーナーで後輪が滑ったら、殆ど制御不能(何もできない)になる

という事を覚えておいた方が良いと思います。




10-11. アンダーステアとオーバーステアーに関する誤解


話が前後してしまいますが、ここでアンダーステアーとオーバーステアについても話をしておきましょう。

既にご存じだと思いますが、アンダーステアとはタイヤの舵角よりも外側にクルマが曲がる事を指し、オーバーステアーとはその逆に内側に向く事を指します。


それではそこで問題です、よくFF車はアンダーステアーでFR車はオーバーステアだと言われますが、本当でしょうか?

答えはYES and NOです。

先ずNOの理由を述べましょう。

普段街中や高速道路を走っている限り、FFもFRもニュートラル(もしくは弱アンダー)なのです。

次にYESの理由ですが、クルマがタイヤの限界を超えるスピードで旋回してひとたびタイヤが滑り出すと、FF車はアンダーステアーでFR車はオーバーステアになるのです。

もし常にFF車はアンダーステアーでFR車はオーバーステアだと思われていたら、それは明らかな間違いです。

それでは次になぜそうなるかについて説明したいと思います。

非常に簡単です。

違いは前後どちらのタイヤが、先に滑り出すかです。

通常摩擦抵抗は、路面とタイヤが静止しているときが一番高く、路面とタイヤに速度差が生じるとどんどん低下します。

このため従動タイヤより、むしろ駆動タイヤの方が路面との速度差が発生し安く、結果的に滑り易くなります。

すなわち、FFの場合でしたら前輪側が滑り易く、FRの場合は後輪の方が滑り易くなります。

となると以下の図の様に、FF車は前部が外側に向き、FR車は後部が外側に向き、結果的にアンダーステアーやオーバーステアーになるという訳です。


FF車               FR車

クルマの特性に限った事ではありませんが、条件を明確にしないと、全く異なった結果になる事は良くある事です。


10-12. ミッドシップカーはコーナーで本当に早いのか?


さて、またまた衝撃の事実をお伝えしたいと思います。

スーパーカーの定番であるエンジンが車体中央にあるミッドシップカーですが、本当にコーナーで早いのでしょうか?


ホンダNSX(ミッドシップカー)

良く耳にする講釈としては、”重心がクルマの中心部にあるので、回転モーメントが小さくなり回頭性が高い”ではないでしょうか?

でも、それで本当にカーブを早く走れるのでしょうか?

本サイトの結論はNOです。

その理由なのですが、先ずは下の太陽系を思い描いて下さい。

地球の自転(Rotation)と公転(Revolution)

今更説明は不要と思いますが、地球は自転しながら太陽の周りを公転しています。

もし地球がクルマだとすると、カーブにおけるクルマの動きは自転ではなく公転です。

話をミッドシップカーに戻すと、前述の講釈の様に”重心がクルマの中心部にあって回転モーメントが小さくなる”のは、下の図の様にクルマが自転するときです。

クルマが自転する場合、車両中心に重心があると回転し易い

回転モーメント小(重心が中央)     回転モーメント大(重心が前部)

ですのでミッドシップカーは、確かにハンドルを切ると簡単に向きを変える構成だと言えます。

ただし逆に言うと、万一スリップすると簡単にスピン(自転)する構成だとも言えます。

実際、排気量を2000ccにアップした2代目のトヨタMR2はその特性がかなり顕著で、雨の日は恐くて走れないとも言われたほどです。


トヨタMR2(ミッドシップカー)

一方カーブにおいては、下図の様に回転の中心は車体のずっと外側にあります。


クルマが公転する場合(カーブを曲がる場合)重心位置は回転モーメントに影響しない

この場合、車体の中心に重心があろうがなかろうが、カーブにおける回転モーメントには何の関係もありません。

すなわち、車体に掛る遠心力に何の変わりもないのです。

という訳で本サイトの結論は、ミッドシップカーがコーナーで早いというのは、全くの幻想であるとしたい思います。

実際自動車レースにおいても、ミッドシップカーがコーナーで極端に早いという印象は、何方もお持ちでは無いと思います。


コーナーでブッチギリに早い!という訳でもないミッドシップカー

強いてミッドシップカーの利点を上げるとすれば、タイヤの減りが前後均等になるぐらいだと言ったら、言い過ぎでしょうか。





第10章: 駆動方式Ⅱ




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