小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)

2012/11: 発行



第16章:タイヤの話Ⅱ
(理想のタイヤとは?)




はじめに


最近燃費を良くするためにエコタイヤなる物が盛んに使われる様になってきましたが、どういったメカニズムで燃費が良くなるのでしょうか?

もしかしたら空気圧を高めてタイヤの剛性を高め、なお且つ接地面のコンパウンドを固めにして転がり抵抗を減らしていると思われているとしたら、100%正解とは言えません。

なぜならば、それだけでは従来のタイヤより、乗り心地が悪く、尚且つ滑り易くなってしまうからです。

という訳で、ここではエコタイヤの製造方法とその省エネメカニズムをじっくり解説すると共に、その弊害についても述べたいと思います。

また併せて、エコタイヤの説明書にしばしば見られる、アドヒージョンとヒステリシスロスについても、思いっきり分かり易くご説明したいと思います。


16-5. エコタイヤ


それでは先ず、燃費に影響するタイヤが受ける抵抗にはどんな種類があるか、考えてみましょう。

と言ってもそれは既に分かっていて、下の図にあります様に、①タイヤ変形、②接地摩擦、③空気抵抗の三つです。


日本自動車タイヤ協会作成資料

そして最近のエコタイヤは、ゴムの補強剤にシリカを使う事で、主にタイヤ変形に伴うエネルギーロス(発熱)を低減しているのです。

ではシリカをゴムに入れると、何故タイヤの発熱を抑える事ができるのでしょうか。


ミシュランのシリカ結合の説明図

上の図はシリカとゴムの結合に関する説明図ですが、早い話、シリカをゴムに混ぜるとゴム間の結合が強固になり、タイヤの弾性が従来よりアップするという訳です。

ご存じの方も多いと思いますが、高弾性のスーパーボールに近くなる思えば分かり易いと思います。


昔大流行したスーパーボール

ではなぜタイヤの弾性がアップすると、タイヤの発熱を抑える事ができるのでしょう。

突然話が変わりますが、以前サスペンションの章で、以下の様に説明したのを覚えていらっしゃるでしょうか?

サスペンションのバネは路面から衝撃を和らげ(吸収し)、ダンパーはそのバネが長い間振動するのを抑えるために付いている。

   
バネとダンパー            ダンパー

またこの話も覚えていらっしゃるでしょうか?

バネを圧縮したり開放したりしても暖まらないが、ダンパーを押したり引いたりすると徐々に暖かくなる。


注射器(ダンパー)を押したり引いたりすると徐々に暖かくなる

ここまで述べると、何が言いたいか薄々気が付かれた方も居るのではないでしょうか?

そうなのです、タイヤとは無数のバネとダンパーが付いたショックアブソーバーと言えるのです。

これに関して丁度良い資料が、経済産業省主催の低燃費タイヤ等普及促進協議会の配布資料の中にありました。


日本自動車タイヤ協会作成資料

上の図に、ゴムは「粘弾性体」とありますが、この”粘”がダンパーを表し、残りの”弾性体”がバネを表している言えば、分かり易いでしょうか。

ですから、タイヤの弾性がアップしたという事は、従来より左上の図の様にバネの機能の方が強くなったという訳です。

このためダンパーによる熱損失が減って、タイヤの発熱が減ったという訳です。

これで最近のエコタイヤが、どうやって省エネになるかご理解頂けましたでしょうか。

ただし、これでメデタシ、メデタシではありません。

タイヤのダンパー機能が減ったという事は、従来より跳ね易いタイヤになったという訳です。

例えばですが、同じサイズで同じ重さの普通のタイヤとエコタイヤを1mの高さから落とすと、エコタイヤの方が高く跳ねるという事です。

となるとです、その熱に成らなかったエネルギーはどこに行ったのでしょう?

タイヤの弾性がアップしても、路面から受ける衝撃が減る訳ではありません。

考えられるのは一つです。

従来タイヤのダンパーが吸収していた振動が、騒音になったり、車体に伝わってたりしているのです。

ある程度の振動は、クルマのサスペンションが吸収するでしょうが、周波数の高い細かな振動は車体にも伝わり乗り心地の悪化を招く事になります。

エコタイヤの弊害として、数値化されているのはウェットグリップ性能だけですが、もし弾性係数だけが異なる二つのタイヤがあるとしたら、違いが大きいのはむしろ乗り心地とタイヤと路面の騒音です

      

いずれにしろ、エコタイヤ普及に伴い転がり抵抗とウェットグリップ性能の二つが数値化された事だけでも消費者としては有益なのですが、更に乗り心地やドライのグリップ性能、さらには騒音についても指標化される事を望むばかりです。




16-6. アドヒージョンとヒステリシスロス


最近エコタイヤの説明において、アドヒージョンヒステリシスロスという難しい言葉が使われています。

一体何なのでしょう?

どうみてもその意味を全く理解しないで使っている記事が一部で見受けられますので、これについて分かり易くご説明したいと思います。

少々驚かれるかもしれませんが、両者はもう上段で説明済みなのです。

まずアドヒージョン(adhesion )ですが、これは英語で粘着力の事です。

ですので、ガムテープの事を英語でアドヘシブテープ(Adhesive tape)と呼びます。

タイヤの場合、アドヒージョンとは摩擦抵抗の事です。

次にヒステリシスロスです。

ヒステリシスとは、加えた力を徐々に取り除いても、その加えた力を全て保持したまま元に戻らない現象を指します。


代表的なヒステリシス曲線

そしてヒステリシスロスとは、その保持できなかった力が熱になって失われた事を指します。

ここまで聞くと、あれこの話は以前どこかで聞いた気がするなと思った方は鋭いです。

そうなのです。

    

前段で上の絵をご覧になったと思いますが、何という事もなくアドヒージョンとは右上の絵の②接地摩擦の事で、ヒステリシスロスとは①タイヤ変形に伴うエネルギーのロスの事なのです。

日本語で書けば簡単な事を、中身を理解していない人に限って横文字を使いたがる。

本書も含めてですが、気を付けなければなりません。

なおもう少しヒステリシスロスについて知りたい方は、再度下の絵をご覧下さい。


バネ(弾性体)は加えた力を緩めるとそのエネルギーを保持したまま元の形に戻る(青い矢印)のに対して、ゴム(粘弾性体)は加えた力を緩めると、赤い矢印の様に加えたエネルギーが減った状態で元に戻ります。

これがヒステリス現象で、これに因って失われたエネルギー(熱)が、タイヤにおける変形抵抗という訳です。

さらに言わせて頂くと、前段でタイヤの中に無数のダンパーが入っていると言いましたが、この無数のダンパーによって路面からの衝撃エネルギーが熱に変換されたという事です。

なおヒステリシスロスとは、摩擦抵抗とは全く関係ありませんので、念のため付け加えておきます。

ついつい話が長くなりましたのでまとめますと、以下の様になります。

タイヤにおけるヒステリシスとはダンパー機能(タイヤ変更)の事で、受けた力を熱に変えて衝撃を吸収するが、それによって燃費が悪くなる。

タイヤにおけるアドヒージョンとは摩擦抵抗の事で、それによってグリップは良くなるが、燃費は悪くなる。

これでご理解頂けますでしょうか?

次はいよいよ空力特性です。




16-5. エコタイヤ/第16章: タイヤの話Ⅱ(理想のタイヤとは?)





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