小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
第17章:クルマの空力特性
(後付けエアロパーツは百害あって一利無し)
17-6. 空気抵抗
そうは言ってもやっぱりエアロパーツを付けたいという方のために、実際にクルマの空気抵抗がどれくらいなのか調べてみたいと思います。
という訳で、比較的公表データの多いGT-Rにおいて、時速100kmと時速300kmにおける空気抵抗を計算してみましょう。
ご存知の様に空気抵抗は、以下の式で求められます。
空気抵抗 = 1/2 x 空気密度 × 前面投影面積 × 速度の2乗 × 空気抵抗係数
先ず空気密度(ρ)は、20℃で1.205kg/m³です。
次に前面投影面積です。
本来でしたらこれは、GT-Rの正面図の面積をCADを使って求めるのですが、図面もCADもないので概算になります。
仕様書で見るとGT-Rの寸法は、以下の様になります。
項目 | 幅 | 高さ | 最低地上高 |
寸法 | 1895mm | 1370mm | 110mm |
ところで、いつもの様にまたまた脱線してしまうのですが、このGT-Rの正面寸法をプロットして驚きました。
GT-Rのプロットした図は、次のAからBのどれになるでしょうか?
GT-Rを探せ
さすがにCは平ら過ぎるとしても、Bぐらいだと思われませんでしょうか。
ところが実はAが正解なのです。
そう感じる理由は、実物を見る場合も、写真を見る場合も、後方のルーフ部はフロント部より数m離れているため、低く且つが狭く見えるための様です。
実際上の図でも、写真の車幅を枠に合わせるとルーフ上とフロントウィンドの左右にかなりのスペースができる事が分かります。
生憎GT-Rの図面は公表されていないのですが、実物(図面)はもっと枠に近づいているのは間違いありません。
トヨタ86の図面と写真の比較
(フロント部は写真の方が大きく、ウィンド部は図面の方が大きく見える)
実際、図面(外観図)が公表されている86においては、上の図面と写真をじっくり見比べて頂けると、フロント部は明らかに写真の方が大きく見えて、ウィンド部は逆に図面の方が大きい事が分かって頂けると思います。
この傾向は広角のレンズを使って撮影するほどは強くなり、逆に焦点距離の長いレンズ(望遠レンズ)を使うと図面に近い写真になっていきます。
なおGT-Rの写真と比べて86のルーフ上部にスペースが少ないのは、86の写真は真正面ではなく、やや上から撮っているためです。
話は戻って、写真で見る以上にクルマの前面投影面積は大きい(寸法枠に近い)というのが分かって頂いたと思いますので、ここではGT-Rの前面投影面積を枠全体の面積の85%として計算したいと思います。
これから前面投影面積を求めると、以下のようになります。
1.895 m x 1.37 m x 0.85= 2.2m²
次に速度ですが、時速100kmを秒速に直すと秒速27m(=100km/h x1000m/60min/60s)になります。
これを2乗しますので、772m²/s²(=27m/s x 27m/s)になります。
最後にGT-Rの空気抵抗係数は0.27との事ですので、これを以下の式に入れます。
空気抵抗 | = | 空気密度 | × | 前面投影面積 | × | 速度の2乗 | × | 空気抵抗係数 |
= | 1.2250 kg/m³ | × | 2.2m² | × | 772m²/s² | × | 0.27 | |
= | 277 N (kg·m/s2) | |||||||
= | 28.2 kgf |
とすると、時速100kmでの空気抵抗は28kgf(277 N)になります。
こうなると、時速300kmではどうなるか知りたくなります。
折角ですので。時速350kmまでの空気抵抗をグラフにすると、以下の様になります。
ちなみに時速300kmでの空気抵抗は、254kgfで、時速100kmと比べると9倍大きくなります。
実はこの計算をする前は、時速300kmぐらいになると空気抵抗は1000kgf近くあるのではないかと勝手に思っていたのですが、思っていたよりは小さな値でした。
なお上のグラフに、CD値が3.0になった場合、或いは全面投影面積が10%小さくなった場合も入れてみました。
ですので、もし後付けのリアウィングを付けてCD値を2.7から3.0に悪化させると、空気抵抗を11%ほど悪化させる事になります。
更にリアウィングを付けて、全面投影面積が10%増えれば、空気抵抗が9%更に悪化する事になるという訳です。
この分が馬力から引かれる事になりますので、実にもったいない事と言えます。
17-6. 空気抵抗/クルマの空力特性