小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
2016/12/01: 発行
第9章:雑学
”間違いだらけのクルマ選び”に間違いはあるか?
目次
52頁. RRはリアにウェイトが掛かるためオーバースティアを示す?
56頁. ディスクブレーキの利点とは冷却効果だけか?
68頁. パワーが多ければ絶対的スピードと絶対的加速度はあがるのか?
71頁. 最大馬力の回転数を最大トルクの回転数で割った値が1.6以上ならば粘りが強くなる?
72頁. 100kmのスピードを安心して出すためには、140kmぐらいが楽に出なければだめなのか?
73頁. 0-400mは不思議な性格をもった人々以外にはあまり必要な数字ではない?
74頁. 狭い日本では登板力より最小回転半径が大切?
まとめ
56頁. ディスクブレーキの利点とは冷却効果だけか?
68頁. パワーが多ければ絶対的スピードと絶対的加速度はあがるのか?
71頁. 最大馬力の回転数を最大トルクの回転数で割った値が1.6以上ならば粘りが強くなる?
72頁. 100kmのスピードを安心して出すためには、140kmぐらいが楽に出なければだめなのか?
73頁. 0-400mは不思議な性格をもった人々以外にはあまり必要な数字ではない?
74頁. 狭い日本では登板力より最小回転半径が大切?
まとめ
はじめに
1976年に発行された”間違いだらけのクルマ選び”をご存じでしょうか?
40年前にベストセラーとなった”間違いだらけのクルマ選び”
今から40年も前に発行された書籍なのですが、それまでの触れられなかった国産車の実態を暴露して、当時ベストセラーになりましたので、若い方でもご存じの方は多いのではないでしょうか。
本サイトでも、いつかこの本の中に間違いはないか調べてみようと目論んでいたのですが、作者が数年前に逝去された事から、矛先が鈍ってしまいました。
ところが最近読者の方より、予告編にあった”間違いだらけのクルマ選び”に間違いはあるか?”に関してリクエストを頂きましたので、思い切って書き上げてみました。
どういう結果になるでしょうか?
なお当該書籍は、発行元の草思社の下記サイトから現在無料で読めます。
52頁. RRはリアにウェイトが掛かるためオーバースティアを示す?
この本によれば、RR(リアエンジン・リアドライブ)はリアにウェイトが掛かるためオーバースティアを示す、とあります。
リアエンジン・リアドライブの代表格ポルシェ911
これは一概に間違いとは言えないのですが、駆動輪より操舵輪が軽い(前輪のグリップが弱い)ため、通常RRはアンダーステアになります。
ただし一旦限界を超えると、重いリア側が遠心力で前に出ようとして後輪側が一気に滑り出すので、制御不能のオーバーステアーになる、というのがより正確な言い方です。
RR車は、高速コーナーで限界を超えると強いオーバーステアになる
もし興味がありましたら、詳細についてはこちら(10-10. RRの基本性能とポルシェ911)をご覧願います。
本件については、50%同意といった感じではないでしょうか。
56頁. ディスクブレーキの利点とは冷却効果だけか?
この本によれば、安いクルマにもディスクブレーキが必要とあります。
ディスクブレーキ ドラムブレーキ(内部)
それは全く同感なのですが、その理由としてディスクブレーキはドラムブレーキに比べて冷却効果が高いからとあります。
それも大きな間違いではないのですが、もっと重要な事があります。
本書をご覧頂いて方は既にご存じとは思いますが、それはドラムブレーキの場合、ブレーキを強く踏むと急激に制動力が高まり、最悪の場合タイヤをロックさせる恐れがある事です。
特に雨の日や雪の日に前輪をロックさせると、クルマはあらぬ方向に突進していきます。
詳細については、こちら(第12章:ブレーキ)をご覧ください。
なおこの本には”更に高価格で高性能なクルマは四輪ディスクブレーキに移行していくと思われる”と記載されており、実際その傾向にあるのですが、本書としてはサーキットでも走らない限り、後輪はサイドブレーキと併用できるドラムブレーキがベストだと考えています。
68頁. パワーが多ければ絶対的スピードと絶対的加速度はあがるのか?
この本によれば、”パワーが多ければ絶対的スピードと絶対的加速度はあがる”とあります。
これについても、もう細かい説明は不要でしょう。
最高速度に関係するのはパワーですが、加速度に関係するのはトルクです。
ペダルを押す力がトルク
ですので、仮に同じパワーで最大トルクの異なるクルマが2台あったとしたら、加速の良いのはトルクの大きなクルマになります。
詳細はこちらをご覧ください。
日本における馬力至上主義も、少なからずこの本が影響したのかもしれません。
71頁. 最大馬力の発生回転数を最大トルクの発生回転数で割った値が1.6以上ならば粘りが強くなる?
先ほど加速度に関係するのはトルクであると指摘したのですが、一方でこの本には以下の記述もあります。
①トルクカーブはフラットなほど運転がラク
②加速とかエンジンのネバリなどは、このトルクと一番関係がある
上の②については、前段の文章と少々矛盾を感じますが、それは置いておいて、更に以下の記述があります。
③最大馬力の発生回転数を最大トルクの発生回転数で割った値が1.6(平均的なファミリカーの値)以上ならば、粘りが強くなる。
という訳で、早速この1.6なる係数(以降勝手にネバリ係数と呼びます)の妥当性を検証してみたいと思います。
サンプル車種は、本書で良く比較に使うマツダのCX-5ディーゼル(高トルクエンジン)とトヨタの86(高回転エンジン)です。
先ず86については、最高出力の200PSが7000回転で、最大トルクの20.9kgが6400回転ですので、ネバリ係数は1.1です。
またCX-5については、最高出力の175PSが4500回転で、最大トルクの42.8kgが2000回転ですので、ネバリ係数は2.3です。
両方とも1.6から大きくずれているので、大衆車の代表としてアクシオ1.5を調べてみると、最高出力の109PSが6000回転で、最大トルクの13.9kgが4400回転ですので、ネバリ係数は1.4です。
順位 | 車種 | ネバリ係数 |
1 | CX-5ディーゼル | 2.3 |
2 | アクシオ1.5 | 1.4 |
3 | 86 | 1.1 |
上の表を見る限り、この係数が大きいほど高トルクエンジンで、マニュアル車であれば頻繁にギアチェンジをしないで済む分比較的楽に運転できる事から、何となく感覚的には合っている様な気もしないではありません。
ただし係数の技術的な根拠(思想)が不明なので、これ以上は何とも言いようがありません。
ちなみに加速度に比例するTWR(トルク・ウェイト・レシオ)の小さい順(加速の良い順)に並べると以下の表の通りですので、これとは逆数になる様です。
順位 | 車種 | TWR(kg/ kgf・m) | ネバリ係数 |
1 | CX-5ディーゼル | 35.3 | 2.3 |
2 | 86 | 58.9 | 1.4 |
3 | アクシオ1.5 | 78.4 | 1.1 |
72頁. 100kmのスピードを安心して出すためならば、140kmぐらいが楽に出なければだめなのか?
皆さんはどうお思いでしょう。
100kmのスピードを安心して出すためならば、140kmぐらいが楽に出る必要があるのでしょうか?
本書はネガティブです。
昔から大は小を兼ねるという諺があります。
ですがクルマの場合も同じでしょうか?
今時のクルマでしたら、自然吸気エンジン搭載の軽自動車でも時速100km程度は軽く出ます。
それにターボエンジンを搭載車にしたら140km程度は出るでしょうが、それで時速100km走行において安心感は高まるでしょうか?
或いはヴェルファイア2400をヴェルファイア3000にしたら、時速100kmでの安心感は増すのでしょうか?
ヴェルファイア
確かに巡航速度100kmで走り続ければ、低速回転を維持できる(アクセルを踏む量が減る)ヴェルファイア3000の方が燃費も静粛性も良いでしょうが、それが直接安心に繋がるとも思えません。
そもそも安心の定義も人によって千差万別でしょう。
また排気量だけ変えて最高速が時速100kmと時速140kmまでのクルマが2台があるとして、それで時速100kmで走行中に何か違いがあるとは思えませんし、ましてや危険を回避できる能力に違いがあるとも思えません。
もし危険を回避するのでしたら、例えば高速道路の合流や、いきなり横から飛び出してきたクルマを避けるために必要なのは最高速度ではなく、瞬間的な瞬発力、すなわち加速の良さではないでしょうか?
おまけに使いもしない時速140kmの能力のために、常時重いエンジンを搭載するのも無駄でしかありません。
要人を乗せるのでなければ、時速100kmも出れば十分でしょう。
73頁:0-400mは信号が青になったら何がなんでもトップで飛び出さないと気が済まないという不思議な性格をもった人々以外にはあまり必要な数字ではない
これも前項をお読み頂ければ、本サイトの見解は分かって頂けるでしょう。
確かに今時シグナルグランプリは意味の無い行為だと思いますが、危険を回避するためには、どうしてもそれなりの加速性能が必要です。
停止状態から400m先までの到達時間を競う0-400mレース
生憎0-400mが速いクルマが事故を避けれた確率が高いとのデータはありませんが、飛んできたボールや落ちてきた瓦を避けられるのは、すばしっこい人なのは間違いありません。
また0-400mと聞くと、単純にシグナルグランプばかりを思い描いてしまいますが、坂道でそのままの速度を維持する場合もクルマは加速しており、0-400mの良いクルマは起伏のある道では楽に運転できるのです。
すなわち同じ様な排気量であれば、0-400mが速いクルマの方が安全面からも断然お勧めと言え、そういう意味からも0-400mのタイムは有効なデータと言えます。
74頁. 狭い日本では登板力より最小回転半径が大切?
そう聞くと誰しも、登板力と最小回転半径は全く異なる事柄であり、生活環境によって状況は大きく異なるので、一概に比べるのは無理があると思われるでしょう。
本書も全く同意見なのですが、以下の様に書けば納得されるのではないでしょうか?
登板力はあくまでも計算値(実際に経験する事はまず無いほどの坂)なので、さほど意味はない。
ただし最少回転半径は、道幅の狭い日本では大いに気にした方が良い。
これはタイトルの付け方に無理があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ベストセラーになったとは言え、40年も前の文献ですので、本サイトとしても突っ込み所は満載ではないかと思ったのですが、一部意見の相違はありますが、昨今の自動車評論家の試乗記より余程まともで、どうしてどうしてかなり理論的で分かり易い記述になっていると感心した次第です。
やはりベストセラーになるのは、それなりの理由がある様です。
おまけに本サイトと同様に、自動車の事をクルマと呼んでいる所に妙な親近感を覚えてしまいました。
もしかしたら本書も、知らない間にこの本の影響を受けているのかもしれません。
”間違いだらけのクルマ選び”に間違いはあるか?/第9章:雑学