小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)
第15章:タイヤの話Ⅰ
(タイヤに関する余りにも多くの誤解を一掃する)
15-5. タイヤに窒素ガスは有効?(前篇)
最近タイヤに窒素ガスを充てんするのが流行っていますが、はたして有効でしょうか?
結論から言いますと、窒素を充填しても何の効果もありません。
今回はなぜ効果が無いかを述べるのではなく、先ず効果があるとするイエローハットの記事を見てみましょう。
窒素ガスは抜けにくい
窒素は酸素に比べ透過係数が小さいため、タイヤ内からゴムへの透過率が酸素に比べ低くなるんだ。
さらに熱による膨脹も大気に比べて少なく、空気圧を一定に保つんだよ。
この中で透過係数という単語が出てきますが、そもそもどうやって測定するのでしょうか?
(ISOに規定されているのでしょうか?)
また窒素と酸素の透過係数はいくつで、その結果酸素と窒素でどの程度(何倍)抜け難いのでしょうか?
この様に測定方法はおろか、数字を一切公表していない説明を、貴方は信じられますか?
客観的な数字による証明のない”効果”は、残念ながら幽霊と同様、現代社会では存在しないと判断すべきです。
更に、もっとひどいのは後半の文章です。
熱膨張は窒素と空気で何倍違い、タイヤの内圧はどの程度違うのでしょうか?
答えは明快です。
シャルルの法則により、全ての気体の膨張率が同じである事は、数世紀も前に既に証明されているのです。
ここまでくると、もう詐欺としか言いようがありません。
ついでに言っておきますと空気の3/4は既に窒素ですので、タイヤ内の1/4(23%の酸素とその他二酸化炭素等)を更に窒素に変えて、どんな画期的な事が起きるのでしょう?
15-6. タイヤに窒素ガスは有効?(後篇)
とさんざん憎まれ口を叩いておりましたら、ブリジストンのHPにしっかりデータが載せられてしまいました。
上記のグラフを見る限り、どうも効果がある様に見えます。
が、ちょっと待って下さい。良く見ると試験条件も試験結果も、納得がいかない事だらけです。
【第1の疑問】
上記試験の空気圧の240kPaとは、タイヤの最大許容空気圧です。
また室温60℃の高温室内テストとなっています。
もし常温でタイヤに空気や窒素を充填したとしたら、60℃では更に圧力が高まって最大許容空気圧を超えてしまいます。一体何度の環境で充填したのでしょうか?
まさか規格外の圧力で試験するとは思えないので、地球上でほとんど存在しない60℃で、空気と窒素の充填を行ったのでしょうか?
一体この60℃の根拠は、何なのでしょうか?
加速試験なのでしょうか?
もしそうだとしたら、常温で何年に相当するのでしょうか?
仮にタイヤのゴムがアレニウス式と呼ばれる化学反応モデルに該当するとしたら、60℃100日間は25℃環境での約13.3年に当たります。
こんな訳の分からない加速試験をやる必要が、あるのでしょうか?
本来やるべき試験は、一般車で標準的な200kPa前後の圧力で、且つ常温の25℃の保管テストを行うべきではないでしょうか?
下のグラフは、JATMA(一般社団法人 日本自動車タイヤ協会)が公表している空気圧の低下量で、常温でも十分低下の傾向は見て取れます。

JATMAが公表している空気圧の低下量
できれば第三者機関において、客観的で中立な常温での放置試験を実施してほしいものです。
【第2の疑問】
更に空気の場合、たった100日で240kPaから140kPaへと、何と58%(140/240)にまで圧力が低下しています。
タイヤの圧力が約半分といえば殆ど走行不能なくらいの低下ですが、本当にその様な結果になったのでしょうか?
よしんば、もしその結果が正しいとしても、その様な誰も経験した事もない結果の出る試験に意味があるのでしょうか?
【第3の疑問】
またキャプションに”空気充填に比べて内圧低下量は約1/2”となっていますが、空気充填の場合の100日後の低下量が58%(140/240)で、窒素充填の低下量が75%(180/240)ですから、低下量の差を述べるのであれば17%(=75%-58%)というべきではないでしょうか?
【第4の疑問】
更に言わせて頂けば、窒素の元素番号は7で酸素は8ですので、普通に考えれば酸素の方が窒素より大きくて、タイヤ(ゴム)を透過し難いのではないでしょうか?
【第5の疑問】
またご存じかもしれませんが、レーシングカーや飛行機のタイヤにも窒素が充填されていますが、これは少しでも酸素を減らして爆発の危険を可能な限り減らすのが目的です。
それともレーシングカーも飛行機も、レース開始前やフライト前に何日も放置したタイヤを使う事があるのでしょうか?
【第6の疑問】
今までの疑問は、イチャモンと取られるかもしれませんが、最後にとどめの疑問です。
この試験結果からすると、100日後には窒素充填タイヤは、75%(=180/240)に圧力は低下する事になります。
一方、前記しました様に空気の3/4(75%)は窒素ですので、空気に入っている窒素の75%が100日後に75%まで減少するとなると、その量は全体の56%(=75%×75%)になります。
としますと、空気充填タイヤは100日後に58%まで圧力が低下しましたので、タイヤに入っていた酸素(全体の約25%)は100日後にたった2%(58-56)にまで減少した事になります。

初期 100日後
まとめると、窒素は100日間で75%に減少するのに対して、酸素は8%(=2/25)に減少するという訳です。
これは非常に画期的な事で、気温60℃のタイヤの中に空気を入れておくと、元素レベルの酸素と窒素をどんどん分離できるという訳です。(多少専門的になりますが、空気中の酸素と窒素を分離する新たな手法になります)
そして気が付くと、(わざわざ窒素を充填しなくても)空気を充填したタイヤは、100日後には窒素濃度97%(=56/58)の空気になっているという訳です。
更にもっと信じられない話をしますと、タイヤの中を真空にして60℃の環境に100日間放置しておきますと、徐々にタイヤは膨らんで、(窒素より酸素の方がどんどん中に入るので)中に貯まるのは酸素濃度54%(=(25-2)/(100-58))の空気になるという訳です。
あなたは本当にこの試験結果を信じられますか?
15-5. タイヤに窒素ガスは有効?/タイヤの話Ⅰ