小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)

2012/11: 発行
2020/01: 更新



第15章:タイヤの話Ⅰ
(タイヤに関する余りにも多くの誤解を一掃する)



15-3. タイヤの空気圧


それでは次に路面のグリップ、乗り心地、燃費に大きく影響するタイヤの空気圧について述べてみます。

先ず空気圧が低い場合と高い場合の特徴は、以下の通りです。

空気圧が低い 空気圧が高い
①乗り心地は良い。
②ただし転がり抵抗が大きいため、遅く且つ曲がらない。
③燃費も悪い。
④路面との接地面積は広く、ショルダー部が強く接地するため、両サイドの偏摩耗が発生する。
⑤接地面積が大きくなるため、雨/雪の場合は滑り易くなる。
①乗り心地は悪い。
②ただし転がり抵抗が小さいため、早く且つ曲がり易い。
③燃費も良い。
④路面との接地面積が狭く、タイヤの中心部が膨らんで強く接地するため、タイヤの中央部だけが早く摩耗する。
⑤接地面積が小さくなるため、雨/雪の場合は滑り難くなる。

少々誇張していますが、④について接地面積を図示したのが、以下の絵になります。


←空気圧が低い     適正     空気圧が高い→

    
 ショルダー摩耗       センター摩耗 

これを見て頂ければ、一目瞭然ではないでしょうか?

前項でお伝えしました様に接地面積の大小はグリップには影響しませんが、空気圧が低いとタイヤの伸縮(変形)が大きくて転がり抵抗が多くなりクルマが早く走れません。

またタイヤの両サイドが摩耗(ショルダー摩耗)し易くなります。

かと言ってどんどん空気圧をあげていくと、タイヤの中心部のみが接地するため摩耗(センター摩耗)が一気に進み耐久性が悪くなります。

という訳で、この①~④のバランスが最も良いのが、各車両のドアヒンジに記載されている標準空気圧なのです。

       

この標準空気圧は、自動車メーカーがそのクルマの特性(車重、駆動形式、サスペンション、試験結果)を考慮して決められた値で、早く安全に且つ快適に走る上でベストの値と思って良いでしょう。

ここで重要なのは、標準空気圧を決めているのはタイヤメーカーではなく自動車メーカーという事です。 (タイヤメーカーが決めているのは、最大空気圧のみです)

ですから同じタイヤであっても、装着するクルマによって標準空気圧は異なるという訳です。

プロのレースドライバが未知のクルマに乗る場合、真っ先に確認するのがタイヤの空気圧ですので、早く安全に走る上でいかに空気圧が重要か分かって頂けると思います。

一般的に高速走行する場合、空気圧を多少高めに設定する傾向がありますが、この場合確かにスピードも出て且つ燃費も良くなるのですが、余りに高くし過ぎると前記した様にタイヤの中央部が偏摩耗しますので、せいぜい+10%以内に抑えるのが賢明です。

また同じタイヤであっても、一人しか乗らない場合は低めに、いつも多人数で乗る場合は高めに設定した方が均等な接地になると言えます。

なお空気圧を調整する場合の注意として、タイヤが十分冷えた状態で行う事があります。
(走行直後の熱い状態で行うと、却って空気圧を低く設定してしまう恐れがあります)

まとめとしましては、空気圧にこだわるドライバーは、見た目はどうあれかなりの走り屋と言えるとしたいと思います。

なおここで、一つだけ苦言を述べさせて頂いて宜しいでしょうか?

この標準空気圧には、なぜ公差が書かれていないのでしょうか?

あらゆる工業製品には、公差が存在します。

指定された空気圧にぴったり合わせる事など、殆ど不可能です。

タイヤについて書くと、いつも何かしら見えない壁にぶつかります。




15-4. 雨で滑り易いタイヤの空気圧はどっち?


ところで横浜ゴムのHPに以下の記事を見つけました。

分かり易く書かれているのは良いのですが、大事な所が間違っています。どこだか分かりますか?


そうです。

以下の文章は明らかに間違いです。

空気を入れ過ぎたタイヤは、(中略)タイヤの接地面積が少なくなるため雨の日などにスリップしやすくなります。

雨の日にスリップし易くなるのは、空気圧過多のときではなく、タイヤの空気圧が減っているときです。

大企業が書いているHPの方が正しいと思われるかもしれませんが、この様に異なる二つの見解がある場合は、論より証拠で実験してみるのに限ります。

実験と言うと難しいと思われるかもしれませんが、この場合自転車を例にしているので、非常に簡単です。

雨上がりで路面が濡れているときに、空気を入れた場合と、抜いた場合で差があるかどうか乗り比べてみるだけで良いのです。(これを読まれた方もタイヤに対する意識が変わると思いますので、実際に試してみる事を強くお勧め致します)

結果がどうなるかですが、恐らく100人中100人が10分も走らずに、空気が減っているときに滑ると実感される事でしょう。

特にパンクに近い程空気が抜けてくると、真っすぐ走る事ができないほど滑ります。

この理由は、空気圧が減ると接地面積が広くなり、タイヤと路面の間に水の膜ができタイヤが路面から浮いた様な状態になるためで、逆に空気圧を高めると接地面積が小さくなり(単位面積当たりの荷重が大きくなり)、タイヤが水の膜を破って(付き抜けて)路面に直に接触できるからです。

またさすがに雪道を自転車で走る人も居ないと思いますが、雪道でも空気圧が減って接地面積が広いほど、滑り易くなります。

この理由を、別の例で説明しましょう。

スキーの板とストックを思い出して下さい。

  
スキーの板              ストック

滑る事を目的としたスキーの板の接地面積は広く、止まる事(制御)を目的としたストック先端の接地面積は小さくなっています。

これと同じで、タイヤにおいても滑り易いものの上を走る場合は、空気圧を高めて接地面積を減らした方が有利なのです。

一度空気圧の減った自転車で濡れた路面を走ってみたら、雨の日に空気圧の減ったクルマに乗る怖さを十分認識して頂けると思います。

またいつもの様に余談になりますが、この車輪の接地面積が非常に小さい乗り物がレールの上を走る電車です。

ですので、電車の走行性能は雨や雪にはめっぽう強い(滑り難い)のです。

こう言うと、ではなぜ雪をどかすラッセル車が必要なのだと言われるでしょう。


理由は簡単で、さすがに重い電車とはいえ、雪に乗り上げたら脱線してしまうからです。

ついでにお伝えしますと、これだけの積雪の中を疾走するラッセル車ですが、当然ながら車輪にチェーンなど巻いていません。

これだけ見ても、荷重が掛かって、尚且つ接地面積の小さい車輪は雪道に強いかが分かるのではないでしょうか。




15-3. タイヤの空気圧/タイヤの話Ⅰ




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