小学生でも分かる
ホイールアライメントの話

2015/04: 初版

目次



7. キングピン角


先ほどお伝えした様に、スクラブ半径はなるべく小さくしたいもののホイール内にスペースがない、そこで考えられたのが下の図の様にキングピンを傾ける事です。


これにより、狭いスペースの所でもスクラブ半径の小さな操舵機構を組み込む事が可能となり、結果として路面との擦れによるハンドル操作を軽くでき、且つ路面からのキックバックを減らせるという訳です。

このキングピンの角度をキングピン角(King Pin Inclination)と呼びますが、前述の通り最近のクルマはキングピンが存在しないため、SAI(Steering Axis Inclination)とも呼ばれます。

またこれによって、もう一つ別の効果が生まれます。

上図の右の絵を見て下さい。

何を表しているか、分かって頂けますでしょうか?

タイヤを右から見た図なのですが、ハンドルを左右に切ると、タイヤの中心は緑色の孤を描いて動くのです。

これがどういう事をするかと言うと、ハンドルを切るとタイヤが下がって、車体を少し持ち上げる事になるのです。

すなわち、車体を持ち上げる分だけハンドル操作が重くなるのです。

ただしハンドルを元に戻そうとすると、逆に軽くなるのです。

これによって、ハンドルを中央に戻す復元力を持たす事が可能になり、直進性を高める事ができるという訳です。

上記をまとめると、以下の様になります。

キングピン角を大きくして操舵中心をタイヤ中心に近付ける(スクラブ半径を小さくする)事によって、①操舵力を小さくでき、②路面からのキックバックを減らし、③ハンドルの中立への回復力が大きくなり、④直進性能が良くなる。

ただし余りにキングピン角を大きくすると、操舵力が極端に重くなる。





8. タイヤの横変形とスクラブ半径の関係


今までお読み頂ければスクラブ半径はゼロが理想のセッティングだとご理解頂いたと思いますが、一般的にはスクラブ半径はポジティブ気味に設定されています。

その理由は、前述しました製造上の理由と、今まで全く話に出なかったタイヤの変形に起因します。

当然ながらタイヤはゴムでできていますので、上下方向だけでなく、進行方向から見て横方向にも変形します。

当然この現象はホイールアライメントの全ての項目に影響を及ぼしますが、最も影響を受けるのがスクラブ半径なのです。


右上の図を見て頂く様に、横剛性の低いタイヤで高速旋回すると、カーブの外側のタイヤが図の様に変形します。

カーブの内側のタイヤも変形しますが、高速になればなるほどカーブ内側のタイヤの負荷は減って、外側のタイヤの負荷が増えていく事になります。


高速旋回になるほど内側のタイヤの負荷は減って外側のタイヤに負荷が掛る

このためもし、スクラブ半径がゼロだったりネガティブだったりしますと、カーブにおける外側のタイヤのスクラブ半径は増加してしまいます。

この場合、タイヤの接地中心が操舵中心より更に内側に移動しますので、タイヤがハンドルを更に内側に回そうとする(オーバーステア方向の)力が働き、少々危険な特性になります。

ところが、スクラブ半径をポジティブでしておくと、タイヤの変形によってスクラブ半径が小さくなり、より安全サイドになります。

この理由により、今まではスクラブ半径をポジティブにする傾向がありました。

ところが最近のタイヤは剛性も上がり、且つ扁平率も下がってきました(厚みも薄くなってきた)ので、よほど無謀な運転をしない限り、この現象を気にする必要はないというのが本サイトの見解です。

以下は、初代フェアレディーZから現在の6代目フェアレディーZのタイヤサイズの変遷を表した図です。


初代フェアレディーZからのタイヤサイズの変遷

これをご覧頂きます様に、昔と比べれば現在使われているタイヤは、横幅も増えてさらにどんどん扁平になり剛性が増している事が分かります。

これはスポーツカーですので多少極端かもしれませんが、今時軽自動車でも扁平率が65%~55%ですので、剛性が上がっているのは間違いありません。

本章のまとめは以下の通りです。

タイヤの剛性が上がった今では、スクラブ半径ゼロが理想的なセッティングである。




7. キングピン角
8. タイヤの横変形とスクラブ半径の関係






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