小学生でも分かる
ホイールアライメントの話

2015/04: 初版
2016/06: 改訂

目次



11. トウはゼロが最適値


トウ(つま先)とはタイヤを上から見たときの傾きを指します。


タイヤが進行方向の内側を向いているのがトウイン(右上図)で、外側を向いているのがトウアウト(左上図)です。

なおトウを数値で表す場合、トウイン側がプラス、トウアウト側をマイナスとして、傾き量を距離(mm)で表すのが一般的です。

当然ながら理想値は±0mmですが、工業製品でそんな事はできませんので、車種によって多少異なるものの、±1mmの範囲であれば十分でしょう。


もしこれ以上にトウ角を付けると、クルマの進行方向とタイヤの回転方向が異なるので、タイヤは摩耗するし、燃費は悪くなるしで、良い事は何一つありません。

具体的には、トーインが大きいとタイヤの外側、トーアウトが大きいと内側が偏磨耗します。

では何故付けるかと言えば、もっと悪い点をカバーするために止む無く付けると考えられている様です。

実際ウィキペディアの日本語版を見ると、いくつか目的が記載されていますが、どうみても間違いとしか思えないものばかりですので、1点ずつ見ていきましょう。

1 ウィキペディア タイヤの抵抗によるトウアウトの防止。
前輪にはポジティブ(プラス)スクラブがつけられている事が多く、路面との摩擦抵抗により常に前開きになるようにモーメントが働く。
そこで、あらかじめトウインを設定、走行中にトウアウトになることを防いでいる。
本書 スクラブ半径の項でお伝えしました様に、スクラブ半径がポジティブの場合、確かにタイヤが前開きになろうとする力は働きます。
ですが進行方向に直角な軸受で支えられているので、前開きにはなりません。
にも関わらず更にトウインにするのは、どうみてもあり得ない話です。
なおFR車全盛の時代は、殆どのクルマが僅かながらトーイン側にセットされていたのは、軸受のストレスを抑えるためだったのかもしれません。
2 ウィキペディア サスペンションに内側の張力を発生させ、車両の安定性を高める。
逆にトウアウトにすると、ハンドル操作に対してあいまいな反応を示すようになる。
本書 軸受には少なからずガタが存在しますので、張力を付けてガタ分の振動を抑える事はあながちあり得ない事ではないかもしれません。
ですが、トウインが安定で、トウアウトがあいまいというのは、理由が不明です。
張力を付けるのでしたら、どちらでも良い筈です。
3 ウィキペディア 偏磨耗の防止。
現代のタイヤは年々偏平化の傾向にあり、ネガティブキャンバーの弊害として内側偏磨耗が起きやすい。
トウインをつけることで内側偏磨耗を緩和することが出来る。
本書 これは恐らく、ネガティブキャンバー((/──\形状)で扁平タイヤを付けると、タイヤの剛性がアップしているので、内側偏摩耗が起きやすいと言っているのでしょう。
だとしたら、この場合キャンバーを修正するべきです。
なぜ主要因であるキャンバーを直さずに、弊害のあるトウインにするのか不明です。
またトウインを付けて、内側偏摩耗を改善できる理由も不明です。

以上の様に、トウを付ける合理的な理由はどう考えても見当たりません。

強いていえばですが、上記項目3においてタイヤにキャンバー角を付けると、傾いた方向に曲がろうとする力が働きます。


タイヤを傾ければ傾いた方向に曲がろうとする

もしかしたらこれを打ち消すために敢えてトウを付ける事があるかもしれませんが、トウの弊害を考えると、むしろそのままの方が得策の様な気がします。

という訳で、少々回りくどい言い方ですが、本項のまとめは以下としたいと思います。

トウを傾けて、ホイールアライメントの弊害を補えるほどの利点はない。




12. まとめ


これまでの記載をまとめると以下の様になります。

1) キャスター角が大きいとタイヤの向きを元に戻す力が発生し、直進性能が良くなる。

2) 操舵中心(キングピン中心)からタイヤの中心までの距離をスクラブ半径と呼び、スクラブ半径が小さいほど、操舵力は軽くなる。

3) キングピン角を設ける事によって、ハンドルを中央に戻す復元力を持たす事が可能になり、直進性を高める事ができる。

4) キングピン角を大きくすると、ハンドルの操作力は重くなるが、ハンドルの中立への回復力が大きくなるので、直進性能が良くなる。

5) タイヤの剛性が上がった今では、スクラブ半径ゼロが理想的なセッティングである。

6) 今時のクルマで無茶な運転をしない限り、キャンバー角は0度が理想的な値である。

7) トウを傾けて、弊害を補える様な利点はない。

上記をまとめると、以下になります。

キャスター角とキングピン角は傾斜させる価値があるものの、スクラブ半径とキャンバー角とトウ角は走行中可能な限りゼロに近付ける。

これだけ覚えておいて頂ければ、かならずや役に立つと思います。

もし更に興味がありましたら、続いてタイヤ編をご覧下さい。





11. トウはゼロが最適値






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