誰も言わなかったスポーツカーの短所
(知っておいて損のないワースト10)

2014/06: 初版
2019/07: 改定

目次



2位:燃費が悪い


低速トルクの細いスポーツカーの場合、一般道の流れに乗って走るにはどうしてもエンジンの回転数を上げて(アクセルを踏み込んで)走行する必要がありますので、結果的に燃費は悪くなります。

このため、少しでも燃費を上げようと街中で(こっそり)5速に入れ様ものなら、アクセルを踏んでも全く加速しないという、ストレスに耐えなければなりません。

更に登り坂になると、本当はトルク不足で遅いのにも関わらず、スポーツカーは峠でも早いという周囲の期待に応えるために、ギアを2段も落として更にアクセルを踏み込まざるを得なくなり、ますます燃費が悪化するという訳です。


1位:街乗りで断然遅い


スポーツカーが何故遅いと思われる方も多いと思います。

ですが、86を運転された方の誰もが、(表立って口には出しませんが)街乗りでは明らかに遅いと感じているのです。

この理由は簡単で、スポーツカーだから早いと思いきや、実は一般車より低速トルクが細いため、普通に運転するとどうしても信号発進で1テンポ遅れるのです。

当然ながら更にアクセルを踏み込めばそれなりに加速するのですが、その代償に燃費の悪化と、爆音とは言わないまでも品のない騒音をまき散らして、肩身の狭い思いをする事になります。


低速トルクの細かった初期ホンダS2000

実際、86と同じく自然吸気の高回転4気筒エンジンを搭載したホンダのS2000が、発売後幾度となくマイナーチェンジを繰り返し、ついには排気量をモデル名と異なる2200ccにまで増やして低速トルクをアップしたのは、この理由によるものです。

下のグラフは、S2000の新旧エンジンである2000ccと2200ccのエンジン性能曲線を1枚のグラフに重ねたものです。


ホンダS2000の新旧エンジン性能比較

これをご覧頂きます様に、新エンジンは馬力と回転数を落としてまでトルクアップを図った事が分かります。

高回転を維持できるサーキットであれば(高回転エンジンを搭載した)スポーツカーはそれなりに早いのですが、ストップ&ゴーを繰り返す一般道では、明らかに遅いのが現実なのです。

最後に、上記S2000のエンジン性能曲線に86のエンジン性能曲線を載せたらどうなるかも見ておきましょう。


このグラフをご覧頂きます様に、86の馬力(茶色の線)はS2000より明らかに(約50馬力)劣りますが、トルク特性(赤い線)は新旧S2000のエンジンの中間に位置している事が分かります。

特に86のトルクが3000回転(赤矢印部)で上がっているのは、非常に高く評価できます。

恐らくですが、これはシリンダー内へ直接燃料を直接噴射する直噴インジェクターと吸気ポートに燃料を噴射するポートインジェクターの2種類のインジェクターを搭載した事(及び可変バルブタイミング)によって達成したのでしょう。


次世代D-4Sと呼ばれる専用のツインインジェクター

もしこのトルクアップが無ければ、初代のS2000と同様に86はもっと乗り難く、且つ遅くなっていたのは間違いありません。

86の発売が遅れたのは、このツインインジェクターの調整に難航を極めたせいかもしれません。

排気量アップや過給機の追加なしに、中速トルクをアップした富士重工とトヨタのエンジニアに敬意を表したいと思います。


まとめ


今まで辛口のコメントを述べてしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

なお本書はスポーツカーに乗るためには、こういったネガティヴ要素を我慢しなければならないという趣旨で書いたのではありません。

これらの短所を積極的にオープンにしていき、今後のスポーツカーの商品化に活かして貰いたいのです。

例えばですが、燃費が悪くや市街地で遅いのは低速トルクを上げれば良いし、乗り心地や車高は(コストがアップしますが)自由に調整できる様にすれば良いのです。

みんなのスポーツカーを、限られた一部のマニアだけのものにしたくないからです。

そして、街中で遅くて不便を強いるクルマをスポーツカーと呼ぶ誤った風潮を、何としてでも打破したいからに他ありません。


おまけ

2016/04: 追加
ところで、ご存じでしょうか。

スポーツカーと呼ぶには値段も性能も桁外れなのですが、実用性をほとんど犠牲にせず走行性能をとことん追求した国産モデルがある事を。

それがあのGT-Rです。


実用性を最大限考慮したNISSAN GT-R

通常この様なモデルですと、エンジンを中央に置いたり、2座席にしたり、車高を低くしたり、地を這うようなスタイルにして実用性をどんどん犠牲にするのが常套手段です。


実用性が殆ど無いスーパーカー

ところがこのGT-Rの場合、大人4人が楽に乗れ、広いトランクもあり、乗り降りもし易く、視界も乗り心地もそれなりで、街乗りの低速トルクも十分あり、さらに雪道も楽に走行でき、燃費(7km/L前後)と最低地上高(110mm)とコスト以外は、全くもって普通に乗れるクルマでもあるのです。

ついでに言えばオートマチックの限定免許でも乗れるのです。

それでいて、ニュルブルクリンクでポルシェと市販車最速のラップタイムを競っているのですから大したものです。

日産ではGT-Rを新次元マルチパフォーマンス・スーパーカーと呼んでいますが、確かにこれは従来のスーパーカーと一線を画すクルマと言えます。


都会が似合うGT-R

どちらかと言えばサーキット走行をイメージさせるGT-Rですが、むしろ都会を優雅に走る姿の方が似合う気がしませんでしょうか。

硬派のGT-Rファンには怒られるでしょうが、いつかコストを抑えて少しでも手の届き易いマイルドGT-Rの発売もお願いしたいものです。


おまけ(その2)

2016/06: 追加

ネットで調べ事をしていましたら、至る所に下の様なトヨタ86の広告が載っていました。


86発売(2012/2)から4年を経てのテコ入れ策か、はたまた夏に行われるビッグマイナーチェンジへの前哨戦なのでしょうか。


何か変わった所があるのかなと思ってクリックした所、86のオーナーズボイスに誘導されました。


見ると、総合満足度4.7とびっくりする程高い値です。

ですが横にある項目別の評価ポイントを見ると、2点台や3点台も散見できます。

ちなみにこれらを平均すると、3.9点です。

全項目の平均だと3.9点なのに、総合満足度では一気に4.7点になる。

何か腑に落ちない気がします。

なお掲載コメント(21件)の方の年齢を平均したら、40.4歳でした。

これを当初の目標である20代まで落とすのは、並大抵の事ではなさそうです。

なお広告には、86を買うとカーライフが変わりますとありますが、何がどう変わるかといった強いメッセージはトヨタのHPには見出せませんでした。

またマイナーチェンジの内容は、お決まりのスタイル変更と馬力アップの様ですが、それが市場で求められている事なのでしょうか?


USAではScion FR-SからToyota 86へ

どちらかと言えば、86のオーナーの声ではなく、86を買えない(買わない)人の声を聴くべきではないでしょうか。

シリンダーが垂直の直列エンジンより遥かに難しい水平対抗エンジンを搭載して重心を460mmまで下げているのですから、物理的な素性は十分です。

だったらほんの数mm車高を上げて、乗り心地と乗降性を良くして、定速トルクを少しでも上げたマイルド86があっても良いのではないでしょうか。

トヨタの苦悩を感じます。

ならば本書としましては、トヨタの次期小型FRに期待するしかありません。




スポーツカーの短所(第2-1位)




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