誰も書かないホンダS660の真実

2015/4/7(火)

目次



3. N-BOXと同じ動力性能


さて、その奇妙なエンジンとは、今どきの軽自動車によく見られる3気筒ターボエンジンなのですが、ご存じでしたでしょうか?

てっきりS660のエンジンはそれなりに差別化されていると思っていたのですが、実はN-BOXの3気筒ターボエンジンと、トルクも馬力も型式も全く同じなのです。

エッ!? 

スポーツカーのエンジンがファミリカーと同じ?

まさかと思って、試しにNシリーズを一車種ずつ公式HPで調べてみた結果、以下の通り馬力もトルクも回転数まで全く同じでした。



S660

N-BOX

N-BOX+

N-WGN

N-ONE

N-BOX SLASH
64 PS
6,000 rpm
64 PS
6,000 rpm
64 PS
6,000 rpm
64 PS
6,000 rpm
64 PS
6,000 rpm
64 PS
6,000 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm

上の表で何故6列に渡って全く同じ数字を羅列しているかと言えば、恐らくどれかの車種でほんの少し数値が違うかもしれないと思い、1車種ずつ忠実にスペック表から拾ったからです。

とは言え、さすがに許容回転数は違うのだろうと思ったのですが、N-BOXのエンジン性能曲線(下図左)を見ると、7,000回転まで回る様になっています。



N-BOX(赤線)のエンジン性能曲線      S660のエンジン性能曲線  


ちなみにS660(上右図)は、グラフ上7,600回転までエンジン回転数は伸びていますが、馬力は同じなので両者は実力は同等と見るべきでしょう。

スポーツカーを標榜し価格も200万円もしながら、エンジンは普及クラスの軽自動車と殆ど同じなのです。

性能曲線から敢えて違いを探すと、以下の通りです。

①1,000回転時のトルクが、S660 は60Nm (6.1kgfm)なのに対してN-BOXは50Nm (5.1kgfm)と2割ほど増えている。

②S660は2,000回転以降徐々にトルクが下がるのに対して、N-BOXは2,000回転以降もトルクはほぼフラットになっている。


すなわちS660 は、2,000回転以降のトルクは多少落としてでも、1,000回転時のトルクをアップして、低回転時のアクセルの応答性を高めた様です。

これはターボチャージャーの変更によるものの様ですが、ホンダが公式HPでレスポンス向上と呼んでいるのがこの事の様です。


推測ですが、N-BOX系と同じS07Aエンジンを流用する限り、S660 で手を入れられる所はここまでだったのかもしれません。

また先の頁で4,000回転以上で急激にトルクが下がる理由を3点挙げましたが、N-BOXのエンジンと殆ど同じである事を考えれば、どうも以下が正解の様です。

3)低回転域におけるトルクアップを最優先したため、その弊害として高回転域での燃焼効率が大幅に低下した。

その証拠と言ったら少々大げさかもしれませんが、以下のエンジン性能曲線はS660のエンジン性能曲線に良く似ていると思われませんでしょうか?


このエンジンは、ダウンサイジングで有名なGolf TSI Highline 1.4ℓのエンジン性能曲線です。


Golf TSI Highline

クルマのダウンサイジングとは、一般的に吸気抵抗、摺動抵抗、重量軽減のために、ターボチャージャー等を付加する事で同出力ながら排気量を抑え、燃費向上を図る事を目的としています。

これが以前のターボ車と異なる所は、低回転でもトルクが立ち上がる様にしたため、高回転では排気抵抗が大きくなり急激にトルクがダウンする事です。

話が長くなってしまいましたが、S660(すなわちN-BOX)のエンジンはダウンサイジングと同じ思想によって設計されたエンジンだったのです。

ですので、S660のエンジンにこれからどんなに手を加えても、高回転におけるトルクダウンは防げませんし、結果的にこれ以上馬力を上げるのは不可能という訳です。

一部のネット記事に、S660のエンジン制御用プログラムを変更すれば、馬力はまだまだ上がる様な事が書かれていますが、そんな事は全くもってあり得ません。

さらにこのダウンサイジングエンジンをスポーツカーに流用したため、S660においては軽自動車で初の(無駄な)6速マニュアルを導入したり、AT(CVT )においては以下の様なシステムを導入したのではないかと推測されます。


すなわちエンジン特性からすれば、加速度は4,000回転を超えると低下し、最高速は5,000回転以上回しても決して変わらないのを、CVT(無断変速機)の制御によってそれを目立たない様に必死に補っているという訳です。

またそれができないMT車は、極力高ギア(低回転域)にドライバーを誘導するために6速ギアを導入したのでしょう。

そんな無駄な事はしないで、走りに有効なのは5,000回転までとしなかったのか甚だ疑問です。




4. 目立たない走りの実力


それでは次に、走りの実力を見てみましょう。

と思ってS660のトルクウェイトレシオを計算してみると、MT車で78.3kg/kgf・mです。

数値だけ見ても何だか分かりませんので、これをいつもの表に入れてみると、以下の様になります。

車名 馬力
/回転数
トルク
/回転数
重量 PWR
kg/ PS
(速度)
TWR
kg/ kgf・m
(加速)
PWR(青線)とTWR(赤線)のグラフ
(いずれも小さいほど速い)

プレミオ
144 PS
6200 rpm
17.9 kgf・m
4000 rpm
1,230 kg 8.55 68.7 ||||| ||||
||||| ||||| ||||

Fit
120 PS
6600 rpm
14.8 kgf・m
4800 rpm
1,100 kg 9.17 73.0 ||||| ||||
||||| ||||| |||||

コペン
64 PS
6,000 rpm
11.2 kgf・m
3000 rpm
830 kg 13.0 74.1 ||||| ||||| |||
||||| ||||| |||||

セレナ
147 PS
5600 rpm
21.4 kgf・m
4400 rpm
1630 kg 11.1 76.2 ||||| ||||| |
||||| ||||| |||||

S660MT
64 PS
6,000 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
830 kg 13.0 78.3 ||||| ||||| |||
||||| ||||| ||||| |

アクシオ1.5
109 PS
6,000 rpm
13.9 kgf・m
4,400 rpm
1,090 kg 10.0 78.4 ||||| |||||
||||| ||||| ||||| |

カプチーノ
64 PS
6500 rpm
8.7 kgf・m
4000 rpm
700 kg 10.1 80.1 ||||| |||||
||||| ||||| ||||| |

S660AT
64 PS
6,000 rpm
10.6 kgf・m
2,600 rpm
850 kg 13.3 80.2 ||||| ||||| |||
||||| ||||| ||||| |

ベルファイア
2400
170 PS
6,000 rpm
22.8 kgf・m
4000 rpm
1,890 kg 11.1 82.9 ||||| ||||| |
||||| ||||| ||||| |

スティングレイ
64 PS
6,000 rpm
9.7 kgf・m
3000 rpm
880 kg 13.8 90.7 ||||| ||||| ||||
||||| ||||| ||||| |||

新型COPEN
64 PS
6800 rpm
9.4 kgf・m
3200 rpm
870 kg 13.6 92.6 ||||| ||||| ||||
||||| ||||| ||||| |||

ワゴンR
52 PS
6,000 rpm
6.4 kgf・m
4000 rpm
790 kg 15.2 123 ||||| ||||| |||||
||||| ||||| ||||| ||||| ||||

ビート
64 PS
8100 rpm
6.1 kgf・m
3000 rpm
760 kg 11.9 124 ||||| ||||| ||
||||| ||||| ||||| ||||| ||||


これを見ると、かなりがっかりではないでしょうか?

確かに自主規制があるのでしかたがないかもしれませんが、加速性能は一昔前(正確には20年以上も前)のカプチーノ程度で、特別加速が良いという訳でもありません。

またパワーウェイトレシオがMTで13.3kg/psもありますので、どんなに頑張っても最高速は時速140km程度でしょう。

さらにAT車はMT車より車重が20kgも重く、なお且つ高速回転に弱いCVT(無断変速機)ですので、最高速は時速120km程度かもしれません。

最高速自体はさほど重要ではないにしても、この程度の実力で200万円はかなり高い様に思います。

これが買えるのは、やはりお金と時間にゆとりのある年配者だけでしょう。

ついでに、S660の性能を更にPWRとTWRの散布図に入れて比較してみると以下の通りで、S660(赤い丸)は所詮軽自動車の実力でしかないのが如実に分かります。



これに対して、同じ軽自動車のセブン160(紫の丸)は、実用性は殆どないものの(価格も400万円ですが)、立派に高性能車の仲間入りをしているのは流石(さすが)です。

そして次は、最も気になるS660のハンドリング性能です。

これを読むと、購買意欲は益々薄らいでいくのではないでしょうか。




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