誰も書かないホンダS660の真実

2015/4/7(火)

目次



5. 期待外れのハンドリング


ご存じの様にS660には、ミッドシップエンジンと前後異径タイヤが奢られていますので、否が応でもハンドリングの良さに期待が持てます。

と、それこそ誰でもそう思うのでしょうが、はたして本当にそうなのでしょうか?

今一度、ジックリ考えてみましょう。


曲がらない

S660は曲がらないと言ったら、誰もがきっと驚かれるでしょう。

エンジンが中央にあるミッドシップスポーツカーが曲がらない訳がないと。

だったら逆に伺います。

ではなぜS660には、以下の様な(それも軽自動車で初となる)アジャイルハンドリングアシストと呼ぶ、内側の車輪にブレーキをかけカーブで曲がり易くするシステムをわざわざ導入したのでしょう。



ミッドシップスポーツカーが曲がり易いのならば、そんな舌を噛みそうなシステムを搭載しなくても良いではないですか?

もう一度訊きます。

何故この様に複雑で非効率で高価なシステムを組み込んだのでしょうか?

その理由は簡単です。

前後荷重が45対55とフロント荷重が余りに軽くて、前輪のグリップが弱く、ハンドルを切った分だけ曲ってくれないないからです。

このため、リアの重いポルシェ911と同様高速域でアンダーステア傾向になるを防ぐために、止むなく設けたのです。

おっと。

大事な事を言い忘れました。

これはあくまでも高速域での話です。

一般道や高速道路を普通に走っている限り、全く関係ない話ですので、ご安心下さい。


S660のアライメントの不思議

折角なので、ついでにこの話もここでしておきたいと思います。

それはS660の特殊なホイールアライメントです。

かなり専門的な話になるのと、技術的にも余り面白い話ではないので、興味のある方のみお読みください。

さてS660の公式HPを見ると、サスペンションに関して以下の様な記述があります。

■フロント:マクファーソンストラット式サスペンション

イニシャルのキャンバー角を−0.5度とするとともに、ロールに伴うキャンバー変化を最適化。
タイヤのトレッドを常に幅広く接触させ、旋回時にも安定した接地性を確保する。
またスプリングレートの設定のほか、スタビライザーとブッシュのレートも最適化し、ロールフィールと乗り心地を向上。
キングピン角を大きめに設定するとともに、ボディへの取り付け方法を工夫して低フロントフード高にも貢献している。



■リア:デュアルリンクストラット式サスペンション

イニシャルのキャンバー角を−1.5度とするとともに、ロールに伴うキャンバー変化を最適化。コーナリング時にも安定した接地性を確保する。
イニシャル・トーは−0.1度とし、全般的なスタビリティを向上。
トー剛性を向上させるためにコントロールアームにボールジョイントを設定し、さらにラジアスアームのブッシュ特性を最適化することで、サスペンション取り付け点剛性、応答性、安定性などを向上させている。


恐らくこれを読んで何のことだか分かる方は殆どいらっしゃらないのではないでしょうか?

実はかく言う本書も、俄(にわ)かに何を言いたいのか分かりません。

という訳で、上記文章をじっくり分析してみたいと思います。

【キャンバー角】

先ずキャンバー角とは、クルマの正面から見た時のタイヤの傾きを指します。


イニシャルのキャンバー角を−0.5度とは、無負荷状態で0.5度タイヤの下側が開いている事を表します。

通常タイヤにマイナスのキャンバー角を付けるのは、曲がりくねった山道を頻繁に走行するためタイヤの外側が偏摩耗するのを抑えるためか、もしくはF1マシンの様に超高速で旋回する場合に、タイヤの横変形の撓みを抑えるためです。


前輪に大きなネガティブキャンバーが付けられたホンダのF1マシン

ですがS660で山道ばかり走るとは思えませんし、ましてや660㏄のエンジンでタイヤを横変形させるほどの走行ができるとは思えません。

となるとアジャイルハンドリングアシストの弊害対策かとも思ったのですが、カーブでブレーキを効かせるのは荷重が掛からない内側のタイヤだけですので、これも考えれません。


残るは軽にしては幅広のタイヤを履くためかと思ったのですが、それならばなおさらキャンバーはゼロに近づけるべきです。

そもそも上記説明文にも”タイヤのトレッドを常に幅広く接触させ”と言いながら、キャンバー角を付ける事自体矛盾しています。

前輪の-0.5度はともかく、後輪の-1.5度はかなりの角度で、さらに二人で乗車すれば、もっとネガティブキャンバーになります。

一体なぜネガティブキャンバーにしたのか、どうしても理論的な説明ができません。

推測ですが、ホンダの決められた試験コースとメニューに従って耐久試験を実施したら、タイヤの外側が摩耗していたので、それを防止するためにネガティブキャンバーにしたのではないでしょうか

特に後輪はエンジンの荷重が掛かるので、前輪以上に外側が摩耗したのかもしれません。

評価結果に合わせてアライメントを微調整するのは決して悪い事ではないのですが、だとしたらそれほど宣伝するほどの事でもない様な気がします。

またもし大多数のS660の後輪タイヤの内側が偏摩耗していたとしたら、S660のユーザーはホンダが想定したほどの頻度やスピードでカーブを走行していないという事になります。


【キングピン角】

キングピン角とは、下の図にあります様に操舵回転の中心となる軸の角度の事です。


この角度を大きくすると、狭いスペースの所でも操舵中心線をタイヤ中心線に近づける事が可能になりますので、結果としてハンドル操作を軽くできるという訳です。

ホンダの記事には、キングピン角を大きめに設定するとともに、ボディへの取り付け方法を工夫して低フロントフード高にも貢献している。とありますので、これは納得できます。

ただし操舵力は重くなりますが、軽のミッドシップでありながら電動パワステを搭載していますので、それは問題ないのでしょう。

【トー】

トー(つま先)とはタイヤを上から見たときの傾きを指します。

S660の場合、後輪のトーを-0.1度傾けるとありますので、右下の図の様にタイヤを進行方向に対して外側に傾ける事になります。


トーを傾けると、クルマの進行方向とタイヤの回転方向が異なるので、タイヤは摩耗するし、燃費は悪くなるしで、良い事は何もありません。

これも推測ですが、後輪に-1.5度のキャンバーを付けたため、その影響で後輪は内側に向かおうとする力が働きます。

ですので、それを打ち消すために-0.1度のトーを付けたのかもしれません


だとしたら、後輪駆動系のストレスは減るでしょうが、これを全般的なスタビリティを向上と呼べるのか、かなり疑問です。

キャンバーもトーも、ゼロ中心が一番理想です。

なおホイールアライメントに関して興味のある方は、こちらをどうぞ。


ところで、ネットの記事を読むとアジャイルハンドリングアシストをOFFするスイッチが無いのが困るという指摘もありますが、アジャイルハンドリングアシストが働くほどの運転ができる様になってから言ってほしいものです。


アジャイルハンドリングアシストの動作条件

本書の読者より、アジャイルハンドリングアシストは街乗りでも働いている様に感じるとの情報を頂きました。

確かにABS+TCS+横滑り抑制装置を統合したVSA(Vehicle Stability Assist )が限界領域の直前で働くのに対して、アジャイルハンドリングアシストはその手前で働かせます。


ですので、当該システムの正確な動作条件は公表されていないものの、もしかしたら街乗りでも働く事があるかもしれません。

念のためお知らせしておきます。

またLSDが付いていないのが不満だとの記事も散見されますが、これも片輪を浮かした走行ができる様になってから言ってほしいものです。

ご存じだと思いますが、あの350馬力オーバーのポルシェ911でさえ標準モデルにはLSDは付いていないのです。

すなわち、ミッドシップやRRの場合、LSDを装着しなくてもは後輪に十分な駆動が掛かるのです。




前後異径専用タイヤ

S660には前後異径の専用タイヤが採用されましたが、これも前述と同じ理由(思想)です。


すなわち、わざわざ余計なコストの掛る専用タイヤにした理由は、万一滑ったら制御不能に陥るため、とにかく滑らない様にするしかなかったからです。

例えばFR車でしたら、カーブで滑り易いのは後輪ですし、FF車ですと前輪だと分かっていますから、おのずと心構えもできます。

ところがS660の場合、どちら(荷重の軽い前輪 or 駆動の掛る後輪)が先に滑り出すのかも分からず、なお且つ滑り出しが唐突のため、万一滑ったら簡単には制御できないのです。

良く知られた話ですが、馬力の増した2代目のミッドシップMR2は、雨の日は(滑り易くて)怖くて乗れないと言われたほどです。


何度もマイナーチェンジを繰り返したトヨタMR2

それゆえ、途中からグリップの高い(摩耗し易い)専用タイヤにして、極力滑らない様にするしかなかったのです。

同じスポーツカーのトヨタ86との根本的な違いは、86は後輪が滑る事を前提に設計しているのに対して、ミッドシップのS660は滑らない事を前提にしているのです。

とは言え、軽自動車に2000㏄クラスのタイヤが本当に必要だったのでしょうか?

また欧米では良く知られた話ですが、911は後輪のトラクションの高さ故に、滑り出す直前までならば最高のパフォーマンスを発揮してくれるものの、一度滑りだしたら、重いリアは巨大な振り子と化すため、FR車の様にカウンターを当てた程度ではスピンを防げないのです。

限界を超えるといきなり滑り出すポルシェ911

もし、そんな事は無いという911のオーナーが居るとしたら、それは限界の遥か手間で運転しているからに他ありません。

また前後異軽タイヤにしたのは、摩耗し易い(グリップし易い)タイヤを採用したため、後輪が早く摩耗するのを防ぐために、止むを得ず行ったのです。

いやそれは違う。

異径タイヤにしたのはグリップを良くするためだと言われる方が居るかもしれませんが、グリップ力はタイヤに掛る荷重×摩擦係数で決まり、接地面積(タイヤの太さや大きさ)には一切関係しないのです。

もっと言うと、幅の広いタイヤにすると接地面が広がると思いきや、幅広タイヤにすると幅方向の接地長さが増えた分進行方向の接地長さが減るので、接地面積自体も殆ど増えないのです。

すなわち異径タイヤと運動性能とは一切関係しないのです。

実際、後輪荷重の重いポルシェ911が異径タイヤを採用しているのは、このため(後輪が早く摩耗するのを防ぐため)です。


異径タイヤを履いたPorsche 911 Carrera 4

ただし幅広タイヤの弱点は、雨道と雪道ですので、いくら後輪が重いとは言え、雪国で一冬超す場合は幅の狭いタイヤに変えた方が良さそうです。

できれば悪口はこれぐらいにしたいのですが、残念ながらミッドシップエンジンの問題点は、まだまだあります。




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