小学生でも分かるトルクと馬力の話
(本当に早いクルマとは?)



第13章:タイヤホイール
(実は鉄製より重いアルミホイール)

2010/1: 初版
2022/9: 改定


13-1. 実は鉄製より重いアルミホイール


先ほどお伝えした様に、恐らくどなたも、鉄製のホイールよりアルミ製のホイールの方が、軽くて、丈夫で、運動性も良くて、値段が高い事を除けば良いこと尽くめだと思われているのではないでしょうか?

     

残念ながら、それは大きな間違いです。

そもそもアルミホイール(正確には微量の銅、亜鉛、マグネシウム、鉄等が入ったアルミ合金ホイール)が鉄製より軽いというのが全く誤解で、実際に同じサイズのホイールを比べてみると殆どの場合アルミ製の方が重いのです。

嘘だと思われるかもしれませんが、クルマメーカもアルミホイールメーカも、アルミに交換して何キロ軽くなったとは一切公表していない事からも分かって頂けると思います。

この理由は、確かにアルミは鉄の1/3の重さ(正確には比重が1/3)なのですが、実は強度も鉄の1/3で、なお且つ靭性(じんせい)が非常に劣る(衝撃に弱い)事から、クルマを余裕を持ってに支えるとなると、結局鉄以上の重さになってしまうからです。

その昔ナポレオンがフランスからイタリアに侵攻するため、アルプス越えを敢行しました。

その際、大砲を全て軽いアルミ製にしたかったものの、当時は電気精錬法がなくて断念したという有名な逸話があります。



この話は間違いではないのですが、もし電気精錬法があってもアルミを断念したのは間違いありません。

何故ならば、大砲をアルミに変えたら、間違いなく鉄以上に重く、且つかさばる物になっていたからです。

更には数回打ったら、破裂していたかもしれません。

実際今までに、アルミ製の銃や機関銃や大砲を見た事がありますか?

飛行機やカメラのボディーの様にある程度衝撃が限定されるのであればともかく、衝撃が直接加わるものであれば、しなやかで且つ強度のある鉄(正確には鋼)が重量の面からも理想的な金属なのです。

ですので衝撃の掛からない外装等でしたら、鉄をアルミに変えて軽くなる可能性もあるのですが、タイヤのホイールの様にクルマの全荷重や、路面からの衝撃に耐えるとなると、結局の所、鉄より重くなってしまうのです。


ダイビング用空気タンクの話

突然ですが、アルミと鉄の重量に関連して、ここで少し面白い話をお伝えしたいと思います。

皆さんはスキューバーダイビングの経験はありますでしょうか?

重いタンクを背負って水中に潜るあれです。


そのタンクですが、うまい具合に鉄製とアルミ製の2種類が存在します。


左から①アルミ製8Lタンク、②アルミ製10Lタンク、③鉄製10Lタンク

当然ながら、ダイビング用のタンクには高圧空気(大気圧の200倍の20MPa)を充填しますので、破裂しない様に相応の強度が必要になります。

となると、タンクの容量が同じであれば、アルミ製のタンクは鉄よりも壁を厚くする必要があるため、結果的にアルミタンクの外形は大きくなります。

このため、上の写真の様に、中央の②アルミ製10Lタンクの方が③鉄製の10Lタンクより大きいのはそれが理由です。

前置きが長くなってしまいましたが、さてそれでは、同じ容量のアルミ製タンクと鉄製タンクではどちらが重いでしょうか?

実際に空気を充填した状態で測ってみると、同じ10Lのアルミ製②が17kgで鉄製③が16kgなのです

すなわち、同じ容量のタンクであれば、何と鉄よりアルミの方が重いのです。

これはほんの一例にすぎないかもしれませんが、少なくともこれで強度が同じ場合、鉄をアルミにしたら重くなるという実例がある事をご理解頂けるのではないでしょうか。

なおそう言うと、これは100%アルミの話で、アルミ合金にすれば鉄より軽くできると言う方が必ずいっらしゃいます。

ですが、それも大きな間違いです。

世の中に、純アルミや純鉄のまま構造体に使われているものなど、存在しません。

鉄も炭素を含めて色々な物を混ぜて、より優れた機械的特性を引き出しているのです。

その現実的なアルミ合金と鉄合金を使った結果が、このタンクの重さに表れているのです。

以上でクルマに関係する空気タンクの話は終わりなのですが、もしかしたらダイビングが趣味の方もいっらしゃるかもしれないので、最後にこの話もしておきましょう。

では、ダイビングをするに当たっては、鉄製とアルミ製のどちらのタンクの方が使い易いのでしょうか?

実はどちらも、一長一短があるのです。

下の表は二つのタンクの空気をフル充填(20MPa)した場合と、残量が1/4(5MPa)になった時の10Lタンクの比重(水との密度の比較)を表しています。

充填量\種類 アルミタンクの比重 鉄タンクの比重
満充填 1.1 1.3
残量25% 1.0 1.2

これをご覧頂きます様に鉄タンクの方が数値(比重)が大きいので、水に沈み易い事を表しています。

ですので、その分身体に付けるウェイトを軽くする事ができるのです。

具体的には、鉄製タンクの方が1kg軽くて、ウェイトも2kgほど軽くできますので、陸上では鉄タンクの方が重量面では明らかに有利になります。

ただし鉄タンクは水より重いので、背中に乗せていると水中で不安定な(仰向けになり易い)のに対して、アルミタンクの比重は水とほぼ同じなので、姿勢が安定し易いというメリットがあります。


覚えておいて損はないと思います。


という訳で、アルミホイールはデザインは良いものの、殆どの場合鉄製の方が、安くて、軽くて、丈夫というのをご理解頂けましたでしょうか。(いつか鉄のすばらしさも、述べたいと思います)

それでもまだアルミの方が優れていると思っている方のために、最後にもう一つ実際にあった話をしておきましょう。

昔あるオートバイメーカーが、軽量化のためにアルミ製のパイプフレームを試作したそうです。

当然ながら、相応の強度計算を行った上で試作したのですが、なんと最初の試運転で見事に曲がってしまったそうです。

前述しました様に、金属の靭性(粘り強さ)も非常に大切なのです。

鉄(鋼)の靭性は、アルミの2倍以上あるのです。

話が逸れましたが、もしアルミホイールに交換するときは、是非重さを比較して且つ強度規格を確認してからにする事をお勧めします。

特に最近、純正ホイールに比較して42%軽量という様な広告記事がありますが、これは強度が同じ場合に初めて比べられるのです。


軽量なアルミホイールは強度を確認する必要がある

もし強度も半分になったとしたら、軽くなるのは当たり前の話で、それに更に数十万円の追加料金を払うのは全くもってナンセンスです




13-1. 実は鉄製より重いアルミホイール/第13章:タイヤホイール





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