試乗記を批評しながらBMW i8の謎に迫る
(試乗した事が無い奴に何が分かる vs お前が試乗して何が分かる)
目次
2. コンセプト (i8のドアはなぜ上方に跳ね上がる方式にしたのか)
【コンセプトモデルのカッコよさを優先】
i8が開発された背景は、09年のフランクフルトモーターショーまでさかのぼる。その当時、BMWの全モデルに強く掲げられた、効率よくダイナミックな性能を得る「エフィシエント・ダイナミクス」思想の象徴となるコンセプトモデルとして「ビジョン・エフィシエント・ダイナミクス」が発表された。その好評ぶりから、i8の市販化が決定して開発がスタートしたわけだ。
コンセプトモデルを忠実に再現して量産するべく、開発にはおよそ38ヶ月が費やされた。詳しい人なら察しがつくと思うが、コンセプトモデルを忠実に再現したからこそ、カッコ良さや存在感が手に入り、逆に言えば実用性は犠牲になっている。
例えば、i8の斜め上方に開くドアは、閉じる際に手が届きにくいし、狭い駐車場では乗り降りにも苦しむ。「なぜ上方にドアが開くようにしたのか?」との質問に、キョトンとした顔で「コンセプトモデルがそうだったから…」との答えが返ってきたのが印象的だ。
この辺になると、もう唖然としてしまいます。
全幅が2m近いクルマ(それも2ドア車)に一般的な水平ドアを付けたら、駐車場で乗り降りできなくなるのはちょっと考えれば分かりそうなものです。
これを狭い日本で考えてみましょう。
一般的な日本の駐車場の幅は2.5mです。
そして日本で一般的な5ナンバー車の最大幅が1.7mですので、この場合両側に40cmずつの余裕ができます。
それでも、(何方でも経験があると思いますが)隣に大きなクルマが停まる(もしくは運転席側に寄せて停められる)と、身体をよじって乗りこむ事がしばしばあります。
そんな状況の中、もしそこに全幅1940mmのi8を停めたら、両側にたったの28cmしか余裕はないのです。
(何度も言いますが)この全幅1940mmとは、レクサスのフラッグシップであるLS(全幅1900mm)より大きいのです。
i8の全幅はレクサスLSよりも大きい
更に、後席までカバーする長い水平ドアを付けたらどうなるか?
小学生でも分かりそうなものです。
分かり易くするため、日本の場合で述べましたが、アメリカでも駐車場の幅はせいぜい2.8mですので、同じく大きなアメ車が両側に停まれば状況は大して変わりません。
レポータがなぜ上開きドアにしたのか尋ねて、(恐らくBMW関係者が)キョトンとした顔をしたのは当然です。
余りにも間抜けな質問に、言葉を失ったのでしょう。
BMW関係者と話ができたのならば、何故後部にエンジンを積んだのか、是非訊いて貰いたかったものです。
ドアが開いても、今度はサイドシルと呼ばれる骨格が極太で、さらにシートがサイドシルよりも低く設置されているため、男性でも乗り降りにコツが必要で、スカートの女性となると適切な言葉も出てこない。
着座位置に対してサイドシルが相対的に高くなるのは、全高の低いスポーツカーの宿命なので、i8が特別異常という訳ではありません。
どんなスポーツカーであっても、全高の低いクルマの乗り降りは本当に大変なのです。
全高がほぼ同じのトヨタ86の場合、乗降時に身体を支えるアシストパッドなる手つきがサイドシルに付いている程です。
トヨタ86のアシストパッド(赤い板の部分)
これについては、誰も言わなかったスポーツカーの短所で詳しく述べていますので、もし興味があれば覗いてみて下さい。
ただし、サイドシルの厚みは間違いなくi8の方が厚いと思われるのですが、生憎データがありません。
i8の幅広いサイドシル
これを読まれた方で、両車のサイドシルの厚みをご存じでしたら、実測値で構いませんので教えて頂けると助かります。
また、後席はオマケの様なもので、荷物置き程度には使えるが、人が乗るなら身長150cmが限界といった広さだし、トランクはトートバックがやっとの狭さで、エンジン熱で暖められてしまうオマケ付きだ。
これは良く気が付いてくれたと思います。
早速エンジンの位置を調べてみましょう。
アラマー。
てっきりリアのエンジンは後輪の真上にあるだろうと思っていたのですが、ここまで前にシフトしていたとは。
スポーツカーの後席が狭いのは当たり前ですが、i8の場合私たちが想像する以上に狭いのかもしれません。
実際北米BMWのHPを見ると、i8の後席は専用バック(ルイビトン製)の置き場になっていました。
LOUIS VUITTON & BMW i PARTNER TO CREATE LUGGAGE OF THE FUTURE
後部にエンジンがある事からトランクが極小なのは止むを得ないとして、(写真を見る限り)後席の背もたれはほぼ直角で、おまけにトランクの荷物が熱くなるとは。
ここまでして、何故50:50に拘ったのか本当に疑問です。
更にエンジンが後ろに有るという事で、遮音性も気になる所ですが、一言も触れらていません。
自称プロのレポーターならば、チェックシートくらい持って試乗してほしいものです。
しかし改めて強く言おう。
i8はクルマを移動する為の便利な道具という価値観での商品力は極めて低いが、ライフスタイルを楽しく優雅に気持ちよくという価値観では抜群の商品力を持っている。
ここも本書の主題ではないのですが、この記述も理論的ではありません。
そもそも商品力とは、その価格(cost)に見合う価値(benefit)があるかどうかの客観的な指標であって、どこかの誰かの勝手な価値観で左右されるものではありません。