試乗記を批評しながらBMW i8の謎に迫る
(試乗した事が無い奴に何が分かる vs お前が試乗して何が分かる)
目次
5. 動力性能(試乗しただけで駆動方式が分かるのか?)
【イメージを覆す3気筒エンジンのフィーリング】
PHVのチューニングによる走りの気持ち良さも特筆モノだ。i8のPHEVシステムでは、フロントタイヤはフロントに搭載された131ps/250Nmを発生する電気モーターのみで、リアタイヤはリアに搭載された231ps/320Nmを発生する1.5L直列3気筒の直噴ターボエンジンで駆動する。
つまり、エンジンが始動しない限り前輪駆動のクルマなのだ。
いよいよ佳境に入ってきました。
i8で一番興味のあった3気筒エンジンです。
i8の1.5リッター3気筒ターボエンジン
1.5リッターですので、1気筒当たり500ccです。
と言う事は、4気筒の2リッターと1気筒当たりの容量は同じですので、これと比べてみれば、大凡(おおよそ)の性能比較が可能です。
2リッターのターボエンジンは以前は結構あったのですが、調べたところ最近ではスバルのBOXERエンジン(FA20)くらいしか見当たりません。
2リッターの4気筒ターボエンジンを搭載したスバルLEVORG
これが馬力300psのトルク400Nm(40.8 kgf)ですので、1気筒少ないので3/4すると、225psの300Nmとなり、i8の3気筒エンジン(231ps/320Nm)とかなり近い値になります。
とは言え、i8の方が6ps、トルクで20Nm上回っていますので、BOXERエンジンより更に高トルクエンジンと言えます。
実際BOXERエンジンのボア/ストロークは86/86なのに対して、i8のそれは82/94.6とよりロングストロークでトルクアップを狙った事が分かります。
高トルクのモーターを積載しながら、更に3気筒の高トルクエンジンまで搭載する。
徐々にその正体に近付いてきました。
しかし、試乗ではモーターだけを使ったEV走行でも、前輪駆動という感覚はない。
剛性の高さなのか、シャシーとキャビンが別々に構成されるiシリーズ特有の構造によるものなのか、FR的とまでは言わないまでも、4輪駆動のような自在感を抱く。
全くもって突っ込み所満載の試乗レポートです。
今どきのクルマを普通に運転して、FFかFRか、ましてや4WDか分かる人などいません。
例えばですが、リヤカーの上に人が乗っていて、それを押したり、引いたり、或いは前後から同時に押して引いても、乗ってる人には押しているか引いているかなど、決して分かりません。
リヤカーに乗って、押されているか引かれているかるかなど誰にも分からない
また一昔前なら、FF車特有のカーブでのオーバーステアや急激なタックイン、4輪駆動のコーナーでのブレーキング現象などありましたが、今では完全にそれらは抑えられており、運転しただけで識別する事は不可能です。
この様なレポーターには、一度数台のクルマに乗って駆動方式当てクイズをやって頂きたいものです。
ちなみにフロントモーターだけで120km/hまで走れるうえに、200km/hオーバーでもモーターはアシストとして働く。
専用の2速トランスミッションを高回転が苦手なモーターに組み合わせ、高速領域でも積極的に使えるようにしてある。エンジンとモーターを組み合わせたシステム最大出力は362ps/560Nm。
0-100km/h加速わずか4.4秒の力強さと、モーターならではのリニアなレスポンスにより、走行ステージを問わず意のままに速度コントロールできる感覚が気持ちいい。
また、ハードなスポーティドライブでは、カーブ出口でのアクセルの踏み込みに対して、グィッとモーター駆動のフロントタイヤがクルマを引っ張ってくれる。
ここもレポーターの勉強不足を露呈しています。
世界で最も売れているトヨタのハイブリッドシステムTHS IIは、遊星歯車を使った動力分割兼統合機構によって、どのスピードにおいてもモーターがアシストできる様になっています。
ただしこの機構は、トヨタによってパテントが抑えられているため、BMWはモータに変速機構を組み込むしかなったのでしょう。
なおこのシステム最大出力の362ps/560Nm(57.1 kgf・m)は強大です。
これだけ見ると、並みの大排気量スポーツカーも真っ青です。
更に重さがたったの1490 kgですので、PWR(パワーウェイトレシオ)とTWR(トルクウェイトレシオ)はそれぞれ4.11 kg/ PSと25.4 kg/ kgf・m になります。
これをいつもの表に入れてみると、何とあのGT-Rを軽く抜いて、市販車の中では一気にトップクラスに踊り出てきます。
車名 | 馬力 /回転数 |
トルク /回転数 |
重量 | PWR kg/ PS (速度) |
TWR kg/ kgf・m (加速) |
PWR(青線)とTWR(赤線)のグラフ (いずれも小さいほど速い) |
CX650ターボ |
100ps 8000 rpm |
10.5 kgf・m 4500-7500 rpm |
230 kg | 2.30 | 21.9 | ■■ PWR ■■■■ TWR |
BMW i8 |
362 PS 4800? rpm |
57.1 kgf・m 4800? rpm |
1490 kg | 4.11 | 25.4 | ■■■■ PWR ■■■■■ ■ TWR |
レクサスLS600h |
445 PS 6400? rpm |
83.6 kgf・m 4000 rpm 単純合算値 |
2230 kg | 5.01 | 26.7 | ■■■■■ PWR ■■■■■ TWR |
GT-R |
485 PS 6400 rpm |
60.0 kgf・m 5200 rpm |
1820 kg | 3.75 | 30.3 | ■■■■ PWR ■■■■■ ■ TWR |
レクサスIS F |
423 PS 6600 rpm |
51.5 kgf・m 5200 rpm |
1690 kg | 4.00 | 32.8 | ■■■■ ■■■■■ ■ |
ランサーEVO |
300 PS 6500 rpm |
43 kgf・m 3500 rpm |
1420 kg | 4.73 | 33.0 | ■■■■■ ■■■■■ ■■ |
アクセラスポーツXD |
175 PS 4500 rpm |
42.8 kgf・m 2000 rpm |
1450 kg | 8.29 | 33.9 | ■■■■■ ■■■ ■■■■■ ■■ |
試乗記だけ読んでも全く分からなかったのですが、このクルマは間違いなく怪物です
と思ったのですが、ちょっと待って下さい。
どうも変です。
TWRが30.3のGT-Rでさえ、0-100 kgを3秒未満で駆け抜けるのに、i8のそれは4.4秒も掛ります。
このシステム最大トルクは正しい値でしょうか?
念のため、BMWの公式HPを確認した所、確かにシステム最大馬力は362psなのですが、システム最大トルクはどこを探しても記載されていません。
i8のテクニカルデータ
実際エンジンの最大トルクは320Nmで、モーターの最大トルクは250Nmなので、足せば570Nmとなり、一概に560Nmは間違いとは断言できないのですが、安全上/システム上で色々制約のあるハイブリットカーで単純合算に近いシステム最大トルクが出せるとは到底思えません。
このため馬力について調べた所、エンジンの最大馬力が231ps、モータの最大馬力が130psで足すと461psですが、システム最大馬力は362psと単純合算の79%でしかありません。
もしシステム最大トルクもこの比率と同じだとしたら、447Nm(45.7 kgf・m)になります。
これで再度TWRを計算すると32.6となり、レクサスIS Fの32.8に近付きます。
車名 | 馬力 /回転数 |
トルク /回転数 |
重量 | PWR kg/ PS (速度) |
TWR kg/ kgf・m (加速) |
PWR(青線)とTWR(赤線)のグラフ (いずれも小さいほど速い) |
CX650ターボ |
100ps 8000 rpm |
10.5 kgf・m 4500-7500 rpm |
230 kg | 2.30 | 21.9 | ■■ PWR ■■■■ TWR |
レクサスLS600h |
445 PS 6400? rpm |
83.6 kgf・m 4000 rpm 単純合算値 |
2230 kg | 5.01 | 26.7 | ■■■■■ PWR ■■■■■ TWR |
GT-R |
485 PS 6400 rpm |
60.0 kgf・m 5200 rpm |
1820 kg | 3.75 | 30.3 | ■■■■ PWR ■■■■■ ■ TWR |
BMW i8 |
362 PS 4800? rpm |
45.7 kgf・m 4800 rpm 推定値 |
1490 kg | 4.11 | 32.6 | ■■■■ PWR ■■■■■ ■ TWR |
レクサスIS F |
423 PS 6600 rpm |
51.5 kgf・m 5200 rpm |
1690 kg | 4.00 | 32.8 | ■■■■ ■■■■■ ■ |
ランサーEVO |
300 PS 6500 rpm |
43 kgf・m 3500 rpm |
1420 kg | 4.73 | 33.0 | ■■■■■ ■■■■■ ■■ |
アクセラスポーツXD |
175 PS 4500 rpm |
42.8 kgf・m 2000 rpm |
1450 kg | 8.29 | 33.9 | ■■■■■ ■■■ ■■■■■ ■■ |
レクサスIS Fの0-100kmが4秒台後半ですので、どうもこの辺が落とし所になりそうです。
レポーターもどこかで聞いた数値を書いたのでしょうが、その数値が妥当かどうか、見極める能力を持ってほしいものです。
とは言え、モンスターとまではいきませんが、i8は超ハイパフォーマンスカーなのは間違いありません。
今まで思っていた従来のハイブリッドカーの印象と、かなり違ってきたのは事実です。
直列3気筒エンジンのサウンドも大きな魅力だ。不思議なことに、V8エンジンのようなビートの効いた排気音を響かせ、しかも回転振動が少なく吹け上がりが良い。
BMWによれば、コストを優先したコンパクトカーの3気筒エンジンと違い、最新技術で性能を追求した3気筒エンジンは官能的なのだと言う。このエンジンに触れると、直列3気筒エンジンに対するイメージが激変して積極的に選びたくなる。
実際、スポーツモードにすると常にエンジンが掛かるのだが、試乗後半はずっとスポーツモードで走っていた。
このクルマの正体がかなり分かってきたので、この辺になると、もうこの試乗記はどうでもよくなってきました。
でも、やはり最後まで突っ込みは入れておきたいと思います。
恐らくこのレポーターが感じたのは事実でしょう。
すなわち、3気筒の弊害は殆ど感じる事はできなかったのです。
ところが、ここで止めておけば良いのに、”V8エンジンのようなビートの効いた排気音を響かせ”などと、知った風な事を書くから始末が悪いのです。
低回転時の単気筒もしくは2気筒程度でしたら、ドッドッドッ或いはバタバタバタという独特の排気音で何となく分かるかもしれませんが、排気音だけを聴いて3気筒以上の気筒数など識別できるはずが有りません。
ましてや走行中でしたら回転数は1000回転以上ですから、耳にそこまでの分解能はありません。
例えば3気筒で1000回転でしたら、1秒間に25回の爆発音で、4気筒で1000回転でしたら1秒間に33回の爆発音がします。
識別できると思いますか?
恐らく排気音を録音してフーリエ変換すれば爆発の間隔が分かるかもしれませんが、その時の回転数が分からない限り正確な気筒数は求められません。
これも是非レポーターに(ブンブン吹かしたエンジンの排気音を聞いて貰って)気筒数当てクイズに挑戦して頂き、大恥をかいて貰いたいものです。
気筒数と排気音の関係
読者の方より、鋭いご指摘を頂きました。
それによると、気筒数が多いほど排気音は高くなるというものです。
まったくもってご指摘の通りで、確かに気筒数が多くなれば爆発回数が増えますので、排気音の周波数は高くなります。
という訳で、早速気筒数と排気音の関係を調べてみました。
これをご覧頂きます様に、3気筒と8気筒エンジンの排気音は同じ回転数であっても1オクターブ以上の差があるので、恐らく誰でも識別可能と言えます。
ただし試乗記にあります様に、3気筒のエンジンが8気筒と同じビートを奏(かな)でるという事は決してありません。
なお排気音の音階に関して、もし興味がありましたらこちらをご覧ください。
お詫びと訂正
2019/10/1
読者の方より、またまた鋭いご指摘を頂きました。
それによると、BMWでは一部の車種にアクティブサウンドデザイン(ASD)と呼ばれる、疑似的にスピーカーから排気音を発生させるシステムを搭載しているそうです。
調べてみるとi8もこのASD搭載車種で、それもV8の排気音を模しているそうです。
レポーターがこのシステムを知ってか知らずかはさておき、i8からV8の排気音がしたのは間違いない様ですので、ここにお詫びして訂正致します。
更にもっとひどい記述は次です。
実は、エンジン始動や12V車載バッテリーを充電するためのジェネレーターモーターも、最大約20psでエンジンのアシストを行う。
このアシストはターボラグを解消してアクセル操作に対する加速感をドライバーのイメージに近づけるもので、速さではなく心地よさや気持ち良さの為に煮詰められている。
この辺りが、次世代車でも走る歓びを大事にするBMWらしさだ。
この辺になると、もう書くのも面倒になってきます。
これを読むと、エンジンを始動させるのも12V車載バッテリーを充電するのも、”ジェネレーターモーター”だと思いませんか?
とんでもありません。
確かにDCモーター(直流電動機)もジェネレータ(発電機)も内部の基本構造は同じなので、モーターを外部の力で回転すれば電気が起きます。
ですが、エンジンを始動させるのは低回転/高トルクのセルモータであり、12V車載バッテリーを充電するのは高回転対応のジェネレーターで、両車の特性は全く異なる物です。
セルモータ ジェネレーター
またこの12V車載バッテリーのジェネレーターモーターとは一体何者なのでしょう。回転しながら発電する夢の様なモータなのでしょうか?
生まれて初めてそんな単語を聞きましたが、そんな物が実際に存在しているのでしょうか?
このレポータは本当にクルマの構造を知っているのでしょうか?
レポーターには大変申し訳ないのですが、正直この”ジェネレーターモーター”なる物が走行をアシストするという話は、にわかに信じる事はできません。
乗り出しで2000万円を超えるスーパーカーだが、すでに3年分のバックオーダーを抱えているという現状もうなずけるし、そうした人々を納得させる完成度に仕上がっていた。
しばしばこういう記述を見ますが、心変りもせずに1年以上も納車を待てる人はまず居ません。
実際1990年に発売されたホンダNSXも、当初3年分のバックオーダーを抱えたものの、バルブ崩壊の影響もあり翌年には殆どのオーダーがキャンセルされました。
i8は今後どうなるのでしょうか?