横並びで比較する
雪道に強い4WDシステムとは

Issued on Jan. 22, 2017
Added on Dec. 3, 2017

目次



  1) はじめに
 ▼2) ディファレンシャルの機能
  3) 4輪直結パーマネント4WD
  4) 前後輪直結パーマネント4WD
 ▼5) パートタイム4WD
  6) パッシブ・オンデマンド4WD
 ▼7) アクティブ・オンデマンド4WD
 ▼8) メカ式フルタイム4WD
 ▼9) 電子制御フルタイム4WD
  10) まとめ(雪道に強い4WDシステムのランク表)

7) アクティブ・オンデマンド4WD


7-3) 日産GT-RのアテーサE-TS

次は皆さん良くご存じの、日産のGT-Rです。


GT-R NISMO

GT-Rと聞けば、恐らく大多数の方がフルタイム4WDだと思われる事でしょう。

ところがさにあらず、普段は後輪駆動で走行し、必要なときだけ前輪を駆動するれっきとしたパートタイム4WD(アクティブ・オンデマンド4WD)なのです。

にも関わらず、サーキットでなぜあんなに早いのか。

その理由を、他車よりスペースを割いて解き明かしたいと思います。

先ずGT-Rにおける最大の特徴は、トランスミッションと4輪駆動機構をエンジンから切り無して、それらを全て車両後方に搭載した事でしょう。


後部座席下にトランスミッションを搭載したGT-Rのカットモデル

この大胆で大変な作業によって、前後荷重を50:50(正確には53:47~54:46)に近付けるという、4輪駆動車にしては大きなアドバンテージを得る事ができました。

そこまでした理由は、RB26エンジンを搭載した先代スカイラインGT-R(R32型)においては、重くて頑丈なRB26エンジンと4輪駆動機構をフロントに搭載した事から、フロントの荷重が余りにも重く、高速カーブで曲がらなかった(強いアンダーステアーの傾向を示した)からにほかありません。


フロントが異様に重かったスカイラインGT-R(R32型)

とは言え、それでも先代スカイラインGT-Rは、デビュー戦以来グループAレースを席巻したのですから、4WD(アテーサE-TS)の威力は絶大だと言えます。


構成は少々異なりますが、この様に前後荷重を50:50に近付けた四輪駆動車は、3000万円超のフェラーリFFぐらいではないでしょうか。


V12気筒エンジンを搭載し、前後荷重47:53を達成したFerrari FFの4RM

それでは、そろそろ本題の4WDシステムの話に移りたいと思います。

下のイラストは、GT-Rに採用されているアテーサE-TSのトランスミッションと4輪駆動機構です。


GT-Rのトランスミッションと4輪駆動機構

このイラストの左下にあるE-TSがセンターデフにあたる4輪駆動機構で、中に入っているのが油圧で制御される湿式多板クラッチです。

この部分をトランスミッションから抜き出して、前後輪と繋げたイラストが以下になります。


GT-Rのアクティブ・オンデマンド4WD

これをご覧頂きます様に、先ずエンジンからの駆動は後方のトランスミッションに伝わり、トランスミッションからの出力はデファレンシャルギアを介して直接後輪に伝わります。

一方前輪への駆動は、トランスミッションからの出力が、ギア→油圧制御式の湿式多板クラッチ→フロントデフの順で伝わります。

このため前後輪の駆動力配分は、クラッチがONのときが50:50、クラッチがOFFのときに0:100になります。

それが分かった所で、それではどんな時にFR走行になって、どんな時に50:50の直結4WDになるのでしょうか?

それをまとめたのが以下の表です。

直進時
定速走行 0:100(FR)
(高速では前輪も駆動)
加速 0:100~50:50(FR~4WD)
急発進 50:50 (ソリッド4WD)

旋回時
高μ路 定常走行 0:100 (FR)
加速 0:100~50:50 (FR~4WD)
低μ路 定常走行 0:100 (FR)
加速 0:100~30:70 (FR~4WD)

制動時
通常 0:100~50:50 (FR~4WD)
急ブレーキ 0:100 (FR+ABS)
スタック 50:50 (ソリッド4WD)

この表をご覧頂きます様に、加速時と制動時以外はほとんど太字で示すFR走行、すなわち後輪駆動で走り続けている事になります。

ですので、単に公道を走っているだけでしたら、全く以て普通のFR車と同じと思っても大きな間違いではなさそうです。

ですので、(そう言ったらどのスーパーカーも同じですが)街乗りだけでGT-Rに乗るのは、甚だもったいないと言えます。

ただし一度(ひとたび)後輪が滑る様な速度になると、前輪にどんどん駆動を掛けて、4WDの本領を発揮するという訳です。

ただしそれはどのアクティブ・オンデマンド4WD車も、似た様なものです。

では何故GT-Rは、サーキットであんなに早いのでしょうか?

考えられるのは、以下ではないでしょうか。

①600馬力もの大出力エンジンを搭載している。

②比較的曲がり易いFRベースの4WDである。

③それに対応してリアが十分重い(総重量が1700kg以上なので後輪荷重が800kg以上)。


もしかしたら、ここまで読んで気が付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、多板クラッチを使ったアクティブ・オンデマンド4WDの思想は、前出のBMWのxDriveと全く同じです。

BMWが従来のフルタイム4WDからアクティブ・オンデマンド4WDに路線変更した事を考えると、ベースとなる駆動車輪(FFベースなら前輪、FRベースなら後輪)に十分な荷重が掛かっていて、尚且つ摩擦係数の高い舗装路走行がメインであれば、もしかしたらフルタイム4WDよりアクティブ・オンデマンド4WDの方がトータルで優位性が高いのかもしれません。

では後程お話するフルタイム4WDの必要性はと問われたら、あくまでも雪道や悪路走行がメインと言えるかもしれません。

左程画期的な結論ではありませんが、こんな所でお許し頂けますでしょうか。

ところで、GT-Rの4WDシステムは、多板クラッチが使われています。

当然ながら半クラッチを多用するとクラッチ板が過熱するため、GT-Rの操作マニュアルには以下の注意事項が挙げられています。

①ドリフト走行、サイドブレーキターンや定常円旋回などの後輪を滑らせるような走行はしないでください。

②砂地、ぬかるみなど、後輪が空転しやすいところでの連続走行はしないでください。

この場合、下の4WD警告灯が点灯するのですが、もしサーキットでこのランプが点灯したら、GT-Rも本望と言えるかもしれません。


4WD警告灯

ただしくれぐれも以下の様なケースで、4WD警告灯を点灯させる事のない様にしたいものです。

指定外のタイヤや摩耗差が大きいもの、サイズが異なるタイヤなどを装着すると、4WD性能が低下したり、トランスミッションなどのパワートレイン系部品が破損します。

また冬用タイヤも必ず指定の冬用タイヤを4輪とも装着してください。

舗装路の話が長くなってしまいましたが、最後に雪道の走破性について述べると、後輪にはメカ式LSDが標準で搭載されているものの、前輪にはオプションでもLSDの設定はありません。

ですが、他車と同様に横滑り防止装置(VDC-R)が装着されていますので、簡易的なLSDによってレベル11にしたいと思います。




7-3) 日産GT-RのアテーサE-TS





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